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2月22日の世界の昔話
おばあさんと山のヤギ
アルバニアの昔話 → 国情報
むかしむかし、山のふもとの小さな家に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
冬のある日、おじいさんとおばあさんは、つまらないことからけんかをしてしまいました。
「なんてガンコなんだろう。わたしはここを出て行くよ!」
怒ったおばあさんは外へ飛び出すと、さむい北風の吹く中、山の中へズンズンと歩いて行きました。
気がつくと日も暮れてしまいました。
今からもどっても、この寒さでは途中で凍え死んでしまうでしょう。
「どうしよう?」
出てくる涙も、凍ってしまう寒さです。
そのとき、むこうにポツンとあかりが見えました。
「ああ、誰かが住んでいるんだ。行ってみましょう」
やっとたどりついたその家は、岩のほら穴に木のとびらがついています。
あかりは、そのとびらのすきまからもれていました。
トントントン。
とびらをたたくと、出てきたのは一匹のヤギです。
「あの、今晩一晩、泊めてくださいな!」
おばあさんは、ヤギのむこうに誰かいるのだろうと思って、大声で言いました。
すると、ヤギが答えたのです。
「わたしらが怖くなかったら、どうぞ」
「まあ! ・・・いいえ、怖いだなんて。ヤギはうちにもいましたから大丈夫ですよ」
おばあさんは、しゃべるヤギにおどきましたが、早く中にはいりたいのでそう言いました。
ヤギはおばあさんを、ランプのともる部屋に連れて行ってくれました。
部屋のまんなかには大きなテーブルがあり、そのテーブルを囲んで、六匹のヤギがご飯を食べていました。
その家にいたのは、七つの目があるヤギ、六つの目があるヤギ、五つの目のヤギ、四つ目のヤギ、三つ目のヤギ、それに扉をあけた二つ目のヤギと一つ目のヤギでした。
おばあさんは怖ろしくてドキドキしましたが、寒い山にいるよりはましです。
「こんばんわ、七匹のヤギさん」
おばあさんがあいさつをすると、七つの目のヤギが、ヤギの乳のスープやチーズをすすめてくれました。
おばあさんは、大喜びでごちそうになりました。
ヤギの乳で作ったスープやチーズはとってもおいしくて、おばあさんはすぐに元気になりました。
ごちそうになったお礼に、おばあさんはヤギたちに昔話を話したり、歌をうたって聞かせました。
ヤギたちはとても喜んで、おばあさんに言いました。
「よかったら、ずっとここにいてください」
おばあさんは次の日からそうじをしたり、草を干してベッドを気持ちよくしたりと、いっしょうけんめいヤギのために働きました。
ヤギたちは乳をしぼり、ヨーグルトやバターをたくさん作ります。
おばあさんはそれを食べて、とても元気に過ごしました。
寒い日は続きましたが、久しぶりに空が晴れたので、おばあさんはおじいさんの様子を見に行くことにしました。
「けんかをして飛び出してきたけど、やっぱり心配だもの」
おばあさんが出かけようとすると、七匹のヤギはヨーグルトのツボを持たせてくれました。
「おじいさんへのおみやげに持っていって。でも、また帰って来てね」
「ええ。ありがとう」
山を下りてなつかしいわが家に帰ると、畑は凍りつき、家は汚れてこわれそうでした。
ギイギイとなる家のとびらを開けると、おばあさんはひめいをあげて座り込みました。
なんと、おじいさんが凍え死んでいたのです。
「ああ、おじいさん、どうしましょう」
おばあさんは泣きながら、おじいさんのくちびるにヤギのヨーグルトをぬってあげました。
すると、どうでしょう。
おじいさんの目が、パッチリと開いたのです。
おばあさんは大喜びです。
そしておばあさんは、これまでのことを話して、
「おじいさんも、いっしょにヤギとくらしましょう」
と、さそいました。
おじいさんは首にマフラーをまくと、おばあさんといっしょに行くことにしました。
けれども、七つの目のヤギや、六つの目のヤギを見たとたん、おじいさんは怖がって
「ギャアアアー!」
と、さけんでしまったのです。
その声におどろいて、七匹のヤギはどこかへ逃げてしまいました。
「おじいさん、なんてひどい声を出すのです! おじいさんは、あのヤギたちのくれたヨーグルトで生き返ったんですよ。わたしはなにがあってもヤギたちを見つけて、あやまって連れて帰りますからね」
おばあさんは、一人でヤギたちをさがしに行きました。
途中、何度も転んだり、強い風に谷底へつき落とされそうにもなりましたが、でもおばあさんはあきらめません。
「ヤギや、出て来ておくれ。おじいさんは良い人よ」
そう言って、探し続けました。
すると夕方になって、ヤギは一匹、また一匹と出て来ました。
「おばあさん、ほんとうにおじいさんは良い人?」
「私たちを、怖がったりしない?」
「ええ。ちょっとビックリしただけ。帰ればわかるわ、おじいさんはとてもやさしい人だってことが」
おばあさんは、七匹のヤギといっしょにほら穴の家にもどりました。
するとおじいさんは、
「おかえり!」
と、飛び出して来て、七匹のヤギのほっぺたに、順番にキスをしました。
それから、おじいさんが暖炉にまきをくべてあたためておいた部屋で、おじいさんの作ったヤギの乳のスープとパンをみんなで食べたのです。
そうして、おばあさんとおじいさんはヤギたちと仲良くくらし、ヤギの乳のごちそうを食べて、とても長生きしたそうです。
おしまい