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2月25日の世界の昔話

やまのおかしら

やまのおかしら
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 むかしむかし、マヨンという山の近くに、シヌクアンという大男がいました。
 からだじゅうが、けもののように毛むくじゃらで、かみの毛もかれ草のようにのびほうだいです。
 風がふくと、からだの毛やかみの毛が、ビュー、ビューと、音をたてるのです。
 でも、子どもずきのやさしい若者で、よく、子どもたちをあつめては、
「さあ、坊やたち。みんなでおじさんの腕(うで)にぶらさがってみな」
と、ふとい腕をのばしてやります。
 すると子どもたちは、ふとい腕でブランコをしたり、さかあがりをしたりしてあそびました。
 また、力持ちで親切なシヌクアンは、村じゅうの力しごとをてつだって、みんなから喜ばれていました。
 ある日、シヌクアンのところへ、山のけものたちがぞろぞろとやってきました。
「なんだ。おまえたち。さては、また畑をあらしにきたんだな?」
 シヌクアンがいうと、けものたちはあわてて手をふっていいました。
「と、とんでもございません。シヌクアンさまのような力持ちのおられるところへ、どうして畑をあらしになどくるものですか。じつは、おねがいがあってまいりました。わたしたちけものの、お頭(かしら)になってほしいのです」
「なに、お頭にだって?」
「はい。シヌクアンさまほど、人のためにつくす人はおられません。それで、そういうかたこそ、けもののお頭になっていただきたいという、みんなののぞみなのです」
 シヌクアンはしばらく考えていましたが、やがて、毛むくじゃらの胸をボンとたたいていいました。
「よし。頭になってやろう」
 あくる朝、シヌクアンがまだねているうちに、一わの小鳥がやってきました。
「お頭。いつでもこまったことがあったら相談にくるようにとおっしゃったので、さっそくおねがいにまいりました。じつは、わたしが住んでいる森のおくに、沼があるのですが、そこのカエルどもがギャアギャアうるさくないてこまっているのです」
「ふーん。しかし、カエルは歌がすきだから、みんなで歌でもうたっているんだろう」
 シヌクアンは、ねむい目をこすりながら小鳥をなだめました。
「いえいえ。それがきたない声で夜どおしわめくんですからたまりません。おかげで小鳥たちは、ひと晩じゅうねられなくてフラフラです。どうか、カエルどもをこらしめてください」
「ふーん。それはカエルが悪いようだ。よし、カエルをつれてこい」
 小鳥にいわれて、年とったカエルがシヌクアンのところへやってきました。
 シヌクアンは、さっそく小鳥の話をしてカエルをしかると、カエルはふくれっつらでこたえました。
「お頭。わたしたちカエルが、夜どおしないているのは、歌がすきなためではありません」
「なに、それならどういうわけだ?」
「カメが悪いからですよ。カメがあの大きな重い家をせおったまま、ドボンドボンと沼(ぬま)へとびこむので、あぶなくってしょうがないんです。それで下じきになってつぶされないように、自分のいるところをカメに知らせるためにないているんですよ」
 シヌクアンはきいているうちに、カエルのいうことがもっともだと思いました。
「そうか。そうだったのか。よし、けしからんカメをよべ」
 年とったカエルは、やはり年とったカメをつれてきました。
 でも、カメはなにもいわないうちから、首をすくめてだまっています。
「こらこら、カメ。だまっていてはわからん。カエルのいうことがほんとうなら、こんやから家をせおったまま、沼へとびこんではならんぞ」
「お頭さま。それはお話がちがいます。わたしどもは、カエルさんにけがをさせるつもりで沼へとびこむのではありません。沼のあたりに住んでいるホタル(→詳細)が、ボウボウともえている火をもってとびまわるので、家がやかれてはたいへんだと、沼へとびこむのでございます」
「ふーん。それはしらなかった。ホタルが火遊びをしていては、なるほどあぶない。ホタルをよんで、こらしめてやらねばならん」
 カメとホタルはつれだって、シヌクアンのところへやってきました。
「お頭。おまたせいたしました。こいつが火遊びをしているホタルでございます」
「うそです。わたしたちはそんなあぶない遊びなど、一度もしたことがありません」
と、ホタルがいいました。
「ほう、それならなぜ、火をもってとびまわっているんだね」
「はい。悪いのはカどもです。チクリ、チクリと、するどい剣でわたしたちをさしますので、しかたなしにわたしたちは火をつけて、夜どおしカの見はりをしているのです」
と、ホタルがわけを話しました。
「さてさて、ひとつのできごとでも調べれば調べるほどむずかしいものだ。しかし、これはどうやらカが悪いようだ。カをよんで、よくいいきかせてやらねばならぬ」
 シヌクアンはホタルにいいつけて、カをよびにやらせました。
 まもなくカは、ブンブンいいながらやってきました。
「これこれ、カ。お頭のシヌクアンさまにごあいさつをしないか」
 ホタルがいいましたが、カはあいかわらず、ブーン、ブーンというばかり。
「こら、カ。おまえは、やたらにその剣でホタルをつきさすそうだが、それにまちがいないか?」
 シヌクアンがききましたが、カはプクッとふくれたまま、へんじをしようとしません。
「へんじができないところをみると、おまえのしわざだな。よし。バツとしてろうやにいれてやる」
 シヌクアンはカをつかまえて、ろうやの中へいれました。
 でもまだ、ほかのカがその近くをブンブンととんでいます。
「ようし。みんなつかまえろ」
 シヌクアンはみんなといっしょに、ほかのカもつかまえました。
 そして山のほら穴の中へ、とじこめてしまいました。
「やれやれ。これですこしは、こたえたろう」
 山のけものたちは、みんなホッとしました。
 ところがメスのカはあやまったので、ゆるしてもらいましたが、オスのカだけは、どうしてもあやまりません。
 それでとうとう、長いあいだとじこめられているあいだに、オスのカは声をだすのを忘れてしまいました。
 でもシヌクアンのおかげで、マヨンの山はみんなたのしくしあわせにくらせるようになりました。

おしまい

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