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6月7日の世界の昔話
ローザとジバル
クロアチアの昔話 → 国情報
むかしむかし、あるところに、三人の娘をもったお金もちの商人(しょうにん)がいました。
上の二人はわがままで、一日じゅう、おしゃれをすることばかり考えていました。
けれども、いちばん下のローザは、気だてのやさしいお父さん思いの娘でした。
お父さんは、運のわるいことがつづいて、財産をすっかりなくしてしまいました。
でもわずかですが、まだ遠くの町に、お金があずけてあります。
そこでお父さんは、お金をとりに、旅にでかけることにしました。
ところが上の娘たちは、お父さんがびんぼうになったって、そんなことはおかまいなしです。
「お父さん。おみやげには、絹(きぬ)のきものと宝石を買ってきてね」
と、ねだりました。
お父さんは、だまっている下の娘にたずねました。
「ローザ。おまえはなにがほしいかね?」
「小さなバラの花を一本ください。ほかのものは、なんにもいりませんわ」
と、ローザはこたえました。
お父さんは、遠くの町まででかけました。
その帰りにお父さんは道にまよって、いつのまにか深い森の中へはいってしまいました。
あいにくの大雨に、びしょぬれです。
しかも運のわるいことは続くもので、強盗(ごうとう)にあって、お金もウマも荷物も、そっくりとられてしまったのです。
お父さんは、雨の森をあてもなく、トボトボと歩いていきました。
ふと見ると、遠くのほうにあかりが見えます。
お父さんは、そのあかりをめざして歩いていきました。
そして、ご殿のようにりっぱな家の前にでました。
お父さんはヘトヘトにつかれており、しかもおなかはペコペコです。
思いきって、中へはいってみました。
そこは台所で、だれもいないのに、かまどがあかあかともえていました。
お父さんは、ぬれたきものをかわかすと、つぎのへやへはいってみました。
そこは、食堂でした。
だれもいないのに、テーブルには食事のしたくがしてあって、スープがおいしそうなにおいをたてていました。
お父さんは、もうたまらなくなって、スープを飲みはじめました。
するとおどろいたことに、スープを飲みおえると、いつのまにかお皿がかわって肉がでてきました。
こうしてお皿はつぎつぎとかわって、さいごにはコーヒーまででました。
おなかがいっぱいになったので、お父さんはとなりのへやへはいってみました。
そこにはりっぱなしんだいがあって、いつでもねられるようになっていました。
お父さんは、絹のふとんにくるまって、朝までグッスリとねむりました。
あくる朝、お父さんがおきると、食堂には朝の食事がまっていました。
お父さんは食事をすましてから、庭にでてみました。
そこは、いままで見たこともないほど美しい庭でした。
ありとあらゆる果物(くだもの)がなり、美しい花がさいていました。
バラの花を見たとき、お父さんはローザとのやくそくを思いだしました。
「そうだ。一本だけ、もらっていこう」
お父さんが一本のバラを、おったとたん、とつぜんおそろしいもの音がして、おそろしいすがたの魔物があらわれました。
「わしの家にだまってはいって、たいせつなバラをぬすむとはなにごとだ! おまえの首をヘしおってやるぞ!」
お父さんはおどろいて、自分のふしあわせな旅の話や、ローザとのやくそくのことをはなしました。
すると魔物は、こわい声でいいました。
「では、わしのたいせつなバラをおったかわりに、おまえのいちばんだいじなものをよこせ。下の娘のローザをつれてこい。わしの妻にする。そしいやなら、いますぐおまえの首をへしおってやる!」
しかたがありません。
お父さんは、魔物に娘をつれてくると約束して、やっと家へ帰してもらいました。
お父さんは家に帰ると、むかえにでたローザにバラをわたして、さめざめとなきました。
「おとうさま。どうなさったの? どんなにびんぼうになってもいいじゃありませんか。みんなでなかよくやっていけますわ」
と、ローザはお父さんをなぐさめました。
「ああ、ローザ。えらいことになってしまったんだよ。わたしの命よりも大切なおまえが・・・。そうだ、かわいいおまえをやるくらいなら、わたしの命をとられたほうがましだ」
お父さんはなきながら、魔物とのやくそくをローザにはなしました。
「お父さん。なかないでください。わたしはお嫁にいくだけで、死ぬわけではないのでしょう。・・・それに、きっと神さまがまもってくださいますわ」
あくる日、お父さんはローザをつれて、魔物のご殿へでかけました。
ご殿では、二人ぶんの食事が用意してありました。
お父さんは娘とわかれの食事をして、ションボリと帰っていきました。
さて、一人のこされたローザは、いつ魔物がでてくるかと、ビクビクしながらご殿の中を見てまわりました。
魔物のご殿ですが、どのへやもどのへやも、美しくかざられており、若い娘のよろこびそうなものが、いっぱいありました。
ご殿じゅうをさがしても、魔物はどこにもいませんでした。
魔物だけでなく、めしつかいのすがたも見えません。
けれどもどこかで見ているのか、ローザがしたいと思うことは、なんでもしてくれました。
ローザは、どこからともなく聞こえてくる音楽を聞きながら、夕食をたべて、美しいへやでねむりました。
ローザが魔物にあったのは、つぎの日の朝でした。
ローザは、世界じゅうの花を集めたような、すばらしい花だんをさんぽしていました。
すると、ものすごい地ひびきがして、むこうからおそろしいすがたをした魔物が、わめきながらやってきたのです。
ローザはこわくてこわくて、気が遠くなりそうでした。
けれども魔物はローザに気がつくと、きゅうにしずかになって、ローザにやさしくいいました。
「こわがらないでおくれ。わしは、わるいものではない。どうか、このご殿でしあわせにくらしておくれ」
そして魔物は、そっといいました。
「ローザ、わしにキスしてくれないか?」
ローザは、まっさおになりました。
どうして、こんなおそろしい魔物にキスができるでしよう。
こわがるローザを見ると、魔物はかなしそうにいいました。
「いや、いいんだよ。いやならしかたがない。ビックリさせてすまなかった。・・・おまえが心からキスしてくれるまで、わしはいつまでもまっているよ」
こうして、ローザは魔物のご殿でくらしはじめました。
魔物は、ジバルといいました。
ジバルにあうのは、まい朝、八時から九時のあいだだけでした。
まい朝あって話をするうちに、だんだんジバルがこわくなくなりました。
いいえ、それどころか、ジバルにあうのがまち遠しくなってきたのです。
けれども、キスをする気持には、どうしてもなれません。
いつのまにか、一年がすぎました。
ローザは、家がこいしくなりました。
(お父さんたちは、どうしているかしら?)
そう思うと、もうたまらなく、お父さんの顔が見たくなりました。
ローザのねがいを、ジバルは聞いてくれました。
「そんなにあいたいのなら、いかせてあげよう。今夜はいつものようにねなさい。あしたの朝は、お父さんの家で目をさますだろう。そして帰るときは、ねる前にここに帰りたいと言えばいい。だが、あさっては、かならず帰ってきておくれ。でないと、おまえもわしも、とんでもないことになる。どうかそれだけは、わすれないでおくれ」
あくる朝、目をさましたローザは、なつかしいお父さんの家にいました。
お父さんは夢かとばかりよろこんで、ローザをだきしめます。
ローザは、魔物のご殿でのくらしをはなして、お父さんを安心させました。
「お父さん。心配しないでください。ほしいものはなんでももらえますし、ジバルは、見たところはおそろしい魔物ですが、とてもやさしいのです。わたくしを、それはだいじにしてくれますの」
二人のねえさんは、ローザのしあわせそうなようすを見て、しゃくにさわりました。
魔物にひどい目にあわされていると思ったのに、ローザはまるでお姫さまのように、りっぱなきものをきて、ますます美しくかがやいているからです。
ねえさんたちは、妹をふしあわせなめにあわせてやろうと思いました。
妹がやくそくの時間に帰らないと、たいへんなことになるというと、いかにもかなしそうに、こういいました。
「たった一日で帰るなんて、じょうだんじゃないわ。まさか、そんな親不孝なことはしないでしょうね。お父さんと魔物とどっちがだいじなの? わたしたちだって悲しいわ」
心のやさしいローザは、魔物とのやくそくが気になりましたが、つい一日、帰りをのばしてしまいました。
つぎの日の夜、ローザはジバルの顔を思い浮かべて、
「あしたの朝、ジバルのところへ帰ります」
と、いいながら目をつぶりました。
次の日の朝、ローザは魔物のご殿のしんだいの上で目をさましました。
ローザは、すぐに庭にでました。
でも、いつもの八時になっても、ジバルはあらわれません。
「ジバル、ジバル。ジバルはどこなの?」
ローザは大声でよびながら、庭じゅうをさがしまわりました。
すると、ジバルは庭のすみのしげみのかげに、死んだようにたおれていました。
ローザの目から、どっとなみだがあふれでました。
「ああ、ジバル、ゆるして。わたしのだいじなジバル」
ローザはなきながら、ジバルのそばにひざまずいて、キスをしました。
するととつぜん、ジバルのみにくい魔物の皮がおちて、世にも美しい、りっぱな若者が立ちあがったのです。
若者はローザを、しっかりとだきしめました。
ジバルは遠くの国の王子で、もう七年のあいだ、魔法をかけられていたのです。
そしてローザという名の娘に、心からキスをしてもらわなければ、もとのすがたにもどれなかったのです。
ジバル王子とローザは、お父さんと二人のねえさんといっしょに、王子の国ヘもどりました。
王子の魔法がとけたというしらせに、国じゅうの人びとが喜びました。
ジバル王子と心のやさしいローザは結婚して、いつまでもしあわせにくらしました。
このお話は、有名な『美女と野獣』の類話です。
おしまい