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5年生の世界昔話
チッコ・ペトリロ
イタリアの昔話 → イタリアのせつめい
むかしむかし、あるところに、娘(むすめ)が一人いる夫婦(ふうふ)がすんでいました。
そして、娘(むすめ)の結婚(けっこん)する日がやってきました。
結婚式(けっこんしき)には、しんせきや知りあいの人たちを、おおぜいまねきました。
さて、教会での結婚式(けっこんしき)も無事にすんで、こんどは娘(むすめ)の自宅(じたく)で、はなやかなお祝いのパーティーをひらくことになりました。
ごちそうが山のようにならべられましたが、まだブドウ酒が出ていません。
そこで父親が、娘(むすめ)の花よめにいいました。
「ブドウ酒がなくちゃ、どうにもならん。地下の酒ぐらにいって持っておいで」
「はーい」
花よめは、酒ぐらにおりていきました。
そして、ブドウ酒のビンをタルの下にあてて、せんをぬいて、ブドウ酒がビンにいっぱいになるのをまっていました。
花よめはそのあいだ、ボンヤリと考えごとをはじめました。
「わたし、とうとう結婚(けっこん)したんだわ。これから九ヶ月もすると、息子が生まれるわ。名まえは、なんとつけようかしら? ・・・そう、チッコ・ペトリロにしましょう。服をきせ、くつ下をはかせ、かわいがって育てて。・・・でも、もし、かわいいチッコが死んだりしたらどうしましょう? ・・・ああ、かわいそうな子、どうして死んでしまったの!」
花よめは、ワーッとなきだしました。
タルのせんはあけっぱなしでしたから、ブドウ酒は、ザアーザアーと床(ゆか)にながれっぱなしです。
テーブルについていたお客たちは、いつお酒がくるのかとまっていました。
でも、いつまでたっても花よめはもどってきません。
「ちょっと、酒ぐらへいって見ておいで」
と、父親がおくさんにいいました。
「そうですね。ひょっとしたら、あの子はねむってしまったのかもしれませんね。小さいときから、酒ぐらでよくひるねをする子だったから」
お母さんが酒ぐらにおりていくと、娘(むすめ)がオイオイとないています。
「まあっ! どうしたの? なにがおきたの?」
「ああ、お母さん。きょう、わたしは結婚(けっこん)したでしょう。そうすれば、九ヶ月あとには息子が生まれるわ。その子の名まえは、チッコ・ぺトリロにしようと思うの。だけどね、お母さん。もし、チッコが死んだらと思うと、かなしくて、かなしくて」
娘(むすめ)はまたも、ワーッとなきだしました。
「ああ、かわいそうな、わたしの孫」
「ああ、かわいそうな、わたしの息子」
娘(むすめ)とお母さんは、だきあってなきだしました。
テーブルについていた人たちは、いくらまってもブドウ酒が出ないので、イライラしてきました。
「二人とも、なにをしているんだ? わしが見にいって、どやしつけてやろう!」
父親は、酒ぐらにおりていきました。
すると、妻(つま)と娘(むすめ)は足までブドウ酒につかりながら、だきあってないています。
「おい。なにがおきたんだ?」
「お父さん、きいてください。この子は、きょう結婚(けっこん)したでしょう。するとまもなく、息子が生まれますね。そこでわたしたち、チッコ・ペトリロって名まえをつけることにしたんです。でも、そのかわいいチッコが死んだらと思うと、かなしくて、かなしくて・・・」
「うん。もっともだ、もっともだ。・・・おお、なんてかわいそうなチッコ・ペトリロ」
父親も、なきだしてしまいました。
三人が、なかなかもどってこないので、
「ぼくが、見にいってきましょう」
花むこはそういって、酒ぐらにおりていきました。
すると三人は、足までブドウ酒につかりながらないているのです。
「いったい、どうなさったんです!」
「あなた!」
と、花よめがいいました。
「わたしたち結婚(けっこん)したんですから、息子ができるわね。わたしはその子に、チッコ・ペトリロと名まえをつけることにしたんです。でも、せっかく育ったチッコがもしも死んだらと思うと、かなしくてかなしくて。それでないているんです」
「はあ?」
花むこは、じょうだんをいっているのだと思いました。
ところが、本気でいっているのがわかると、三人にどなりました。
「あなたたち三人は、そろいもそろってなんてバカ者なんだ。みんなお酒が出るのをまっているじゃないか。いままでこんなバカ者ぞろいとは思ってもみなかった。バカバカしくて気がおかしくなる。こんなうちではとてもくらせない。そうだ、いっそ旅にでよう。妻(つま)よ。おまえの顔を見ずにいたら、ぼくの気もしずまるにちがいない。旅にでて、もし世間におまえよりもっとバカな者がいたら、もどってきていっしょにくらしてやる」
花むこはさんざんののしって、酒ぐらを出ていきました。
そしてふりかえりもせずに、旅にでていきました。
旅にでた花むこは、ある川のたもとにつきました。
すると、小舟(こぶね)につんだ、はしばみ(→カバノキ科の落葉低木)の実を、大きな熊手(くまで)ですくいあげている人がいました。
でも、はしばみの実は、熊手(くまで)のすき間からこぼれ落ちて、なかなかすくえません。
「もしもし。熊手(くまで)で、なにをしているのですか?」
「ああ、さっきから何度もすくっているだが、ちっともすくいあげられないんだ」
「あたりまえですよ。なぜ、シャベルをつかわないんです?」
「シャベル? そうか、なるほどね。そいつは気がつかなかった」
(妻(つま)たちよりも、おバカな人が一人いた)
しばらくいくと、川の水を小さなスプーンですくって、ウシにのませている人がいました。
「もしもし。そんな小さなスプーンで、なにをしているのですか?」
「ああ、さっきから三時間もやっているんだが、ウシののどのかわきが、なかなかとまらねえんだ」
「あたりまえですよ。なぜ、ウシにちょくせつ川の水をのませてやらないんです?」
「ちょくせつ? おおっ、それはいい考えだ」
(これで、おバカが二人めだ)
花むこは、またあるきつづけました。
すると、畑のくわの木のいただきに、ズボンを手にして、立っている女の人がいました。
「もしもし。そんなところでなにをしているんです?」
「まあ、だんな、きいてくださいよ。夫がこのあいだ死んのですが、坊(ぼう)さんがいうにゃ、夫は天国へいったちゅうことです。そこでわたしゃ、もどってきたら、このズボンをはかそうと思ってまってるだよ」
(三人めのおバカだ)
世間には、妻(つま)よりもバカな者が三人もいた。
これでは、うちへかえったほうがよさそうだ。
花むこはそう思って、うちへかえりました。
この後、うまれた子どもにチッコ・ペトリコと名づけましたが、チッコ・ペトリコはとても長生きしたそうです。
おしまい
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