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11月23日の世界の昔話
悪魔のすすだらけきょうだい
グリム童話 →詳細
むかしむかし、ハンスと言う名の兵士がいましたが、仕事をやめてしまったので、これらかどうくらしていいかわかりません。
そこで、ハンスは森にでかけていきました。
そして、ハンスはひとりの悪魔(あくま→詳細)にであったのです。
悪魔はハンスにいいました。
「おまえさん、どこかわるいところでもあるのかね? ひどくふさぎこんでいなさるようだが」
すると、ハンスはいいました。
「ぼくはおなかがペコペコなんです。金もないんです」
それをきくと、悪魔はニヤリとわらい。
「それはかわいそうだ。もしおまえさんがわたしのところに奉公(ほうこう→住みこみではたらくこと)して、わたしの召使い(めしつかい)になる気があったら、一生らくにしてやるよ。だが、おまえさんは七年間、わたしにつかえなきゃいけないよ。そしたらおまえさんはもういちど、自由の身になれるんだよ。でも、いくつかの条件がある。まず、けっしてからだをあらってはいけないこと。それから、髪をとかしてもいけない、指ではらってもいけない。つめも髪の毛も切ってはいけない。また、目からでる水けをぬぐってもいけないよ」
「まあ、このままではどうしようもないから、とにかくやってみるとしましょう」
ハンスのことばに、悪魔はハンスを地獄へつれていきました。
それからハンスにむかって、これからしなければならないしごとについて話しました。
「おまえさんは、地獄のあぶり肉のはいっているかまの下の火をかきたてなければならない。家のなかをきれいにして、はいたごみを戸のそとにはこびだす。ただそれだけだ。けれども、ただのいちどでもかまのなかをのぞいたらひどいめにあうからね」
「よろしいとも、ぼくはきっとやります」
それから悪魔は、旅にでました。
さっそくハンスはじぶんのしごとにつきました。
火をもっともやし、そうじをし、はいたごみを戸のそとにはこび、いわれたことをなんでもきちんとしました。
悪魔はかえってくると、なにもかもがちゃんとやってあるかどうかをしらベて、満足したようす。
そして、二度めの旅にでました。
ハンスは、つくづくあたりを見まわしました。
まわりにかまがならんでいて、その下にはものすごい火がもえています。
火にかけられたかまは、グツグツとにえていました。
「いったい、なにが入っているのだろう?」
悪魔のことばをわすれたわけではありませんが、何が入っているかが知りたくて、がまんできなくなったハンスは、一ばんめのかまのふたをほんのすこしあけてのぞきこみました。
するとなかには、むかしじぶんの上にいた兵士がすわっているのが見えました。
「こんなところできみにあうとはきぐうだな。そういえばむかし、きみはぼくをいじめたっけな。こんどはぼくがきみをいじめてやるぞ」
そして、いそいでふたをしめました。
それから火をかきたて、あたらしいまきをくべました。
それからハンスは、二ばんめのかまのところヘいきました。
ふたをすこしあけてみますと、そこにはさっきよりもえらい兵士がいました。
「こんなところできみにあうとはきぐうだな。そういえばむかし、きみはぼくをいじめたっけな。こんどはぼくがきみをいじめてやるぞ」
またふたをしめて、丸太を一本もってきました。
ハンスは、うんとかまをあつくしようと思ったのです。
こんどは、三ばんめのかまをのぞいていました。
そこには、将軍さえいました。
「おや、将軍ではありませんか。そういえばむかし、きみはぼくをいじめたっけな。こんどはぼくがきみをいじめてやるぞ」
そこでハンスは、ふいご(風を送って火力を大きくする道具)をもってきて、地獄の火を将軍の下にかきたてました。
こうして七年のあいだ、ハンスは地獄ではたらきつづけました。
そのあいだ、からだをあらいもしません。。
髪もとかしません。
指ではらいもしません。
つめや髪の毛を切りもしません。
また、目からでた水けをぬぐいもしませんでした。
そして、七年間がすぎましたが、ハンスにとっては楽しい毎日だったので、たった半年ぐらいにしか感じませんでした。
時がすっかりすぎると、悪魔がきていいました。
「ところでハンス、おまえさんはどんなことをしてきたかね?」
「はい。ぼくは、かまの下に火をかきたてました。それから、そうじをして、はいたごみを戸のそとにはこびました」
「だが、おまえさんはかまのなかものぞいたね。でも、まきをつっこんだのはよかった。そうでなかったら、おまえさんの命はなくなっていたからね。いまこそおまえさんは自由だ。うちにかえりたいか?」
「はい、うちでお父さんがどうしているか見たいと思います」
すると、悪魔はいいました。
「おまえさんのもらうはずのお給金がもらえるように、あっちで、おまえさんのリュックいっぱいに、はいたごみをつめておいで。リュックのなかみはあとで見てみるといい。だがねえ、おまえさんは、からだもあらわず、髪もとかさずにいかなきゃいけないよ。頭もボーボー、ひげもモジャモジャのままで、つめも切らず、ドロンとした目をしてね。そして、もしだれかがどこからきたかとたずねたら、地獄からきたというんだよ。そして、おまえはだれかときかれたら、悪魔のすすだらけのきょうだいで、また、悪魔はわたしの王でもあるといわなきゃいけない」
ハンスは、おとなしくだまってうなづきました。
そして、地獄を出たハンスは、お給金としてもらったリュックのなかのごみを見てみました。
すると、ごみは本物の砂金(さきん)にかわっていたのです。
「まさか、こんなすごいものをくれるとは!」
大喜びしたハンスは町にはいりました。
宿屋の主人が、ハンスによびかけてたずねました。
「おまえ、どこからきたんだ?」
「地獄からだだよ」
「おまえは、だれだ?」
「悪魔のすすだらけのきょうだいで、また、悪魔はわたしの王でもある」
ビックリした主人は、ハンスをいれようとしませんでした。
けれども、ハンスが主人にリュックの砂金を見せると、主人はよろこんで扉をあけました。
そして、ハンスをいちばんいいヘやにあんないしました。
ハンスは料理を注文すると、おなかがいっぱいになるまで食ベたりのんだりしました。
けれども、悪魔のいいつけをまもってからだをあらいもせず、髪をとかしもしませんでした。
そして、ベッドに横になってねむってしまいました。
その夜、主人はこっそりハンスのところへいって、リュックをぬすみました。
よく朝、ハンスが目をさまし、主人にお金をはらってでかけようとすると、大切なリュックがありません。
(ぼくにはなにもわるいところはないのに、不幸なめにあった)
ハンスはいちもくさんに地獄にもどると、悪魔にたすけをもとめました。
すると悪魔はいいました。
「まあおすわり。わたしはおまえさんをあらって、髪をとかし、指ではらい、髪の毛やつめを切り、また、目をぬぐってあげよう」
悪魔はそれがすむと、ハンスにそうじのごみのいっぱい入ったリュックをわたしました。
そして、いいました。
「さあ、店にいって、主人におまえさんの金をわたすように言いなさい。さもないとわしが主人を連れて帰り、そしておまえさんのかわりに火をかきたてさせると言うんだ」
ハンスは宿屋にもどると、主人にいいました。
「きみは、ぼくの金をぬすんだね。もしきみがそれをかえさないなら、悪魔がきみを地獄に連れ帰り、ぼくのかわりに地獄で働かせると言っているぞ」
すると、こわくなった主人はハンスに金をかえし、そのうえ自分の金をそえて、どうか悪魔にはだまっていてほしいとたのみました。
こうしてハンスは、たいへんなお金持ちになりました。
おしまい