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12月4日の世界の昔話
魔法使いと若者
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むかしむかし、お母さんと二人でくらしている若者がいました。
若者は本をとじ合わせたり、皮で表紙を作る製本屋(せいほんや)さんで働いていました。
一生懸命働き、たくさん勉強もした若者は、今の仕事をもっともっと勉強したくて、旅に出ることにしました。
ところが、途中の森の中で道に迷ってしまったのです。
「ああ、くたびれたな。おなかがすいたな。でも、こんな森の中に宿屋があるはずはないし。・・・あ、あった!」
若者があきらめかけたとき、遠くにあかりが見えました。
若者はうれしくなって、あかりをめざして走っていきました。
そこは小さな古い家で、扉をたたくと、中からやせた背の低いおじいさんが出て来ました。
「お願いです、今夜一晩泊めてください! おなかもすいて、もう一歩も歩けないのです!」
若者がたのむと、おじいさんは部屋にいれてくれました。
そして、すみっこにあるテーブルにむかって、何やらブツブツ言い出したのです。
「なにをしているんだろう?」
ジッと見ていると、ふしぎなことに、パンにシチューに焼きたてのお肉、それにワインまでが、とつぜんあらわれたのです。
若者は大喜びで、パクパクムシャムシャ食べました。
そしておなかいっばいになると、おじいさんにお礼を言いました。
するとおじいさんは、ニヤニヤ笑いながら、
「ところで、お前さんはこの字が読めるかね?」
と、一冊の分厚い本を差しだしました。
若者は製本屋さんで働いていたので、知らない字はありません。
でも、『字ならなんでも読めます』って言ったら、なんだかいばっているように思えたので、こう答えました。
「いえ、字は、・・・あまり知りません」
「ほう。そうかい、そうかい。それはいい」
おじいさんはうれしそうに笑うと、若者をとなりの部屋に連れて行きました。
その部屋は、床から天井までビッシリと本がつみあげられています。
おじいさんは若者に、
「この本のほこりを全部とってほしい。1ページ、1ページ、わしがよく見えるようにしておくれ。わしはこれから三年間旅に出るから、帰って来るまでにやっておいてほしい」
そう言って、すぐに旅立って行きました。
その日から、若者は森の奥の小さな一軒家で、本のほこりをとる仕事を始めました。
初めはほこりをとることに一生懸命でしたが、そのうちに、この本は全部魔法のことばが書いてあることに気がつきました。
若者は夢中になって読みだし、いろいろな魔法のことばを覚えました。
それから、やくにたちそうな魔法のことばが書いてあるページは切りとって、ポケットにこっそりしまいました。
月日はいつの間にか過ぎ、三年たっておじいさんの魔法使いが帰って来ました。
魔法使いはきれいになった本の山を見てとても喜び、若者にたくさんのお金をあげました。
若者はそのお金を持って、お母さんの所へもどりました。
お母さんは、三年ぶりに帰ってきた息子をだきしめて喜び、たくさんのお金を見て、さらに喜びました。
お母さんと息子はしばらくのあいだ、のんびりとくらしました。
そしてお金がなくなると、若者は覚えてきた魔法のことばで白いウマになり、お母さんに言いました。
「ぼくを市場で高い値段で売ってください。でも、絶対に手綱(たづな)はとりはずして売ってください」
お母さんは言われたとおりに、市場にウマを売りに行きました。
すると、りっぱな紳士が近づいて来て言います。
「ほほう。これは見事なウマだ。五百ターレルで買いましょう」
ウマになった若者は、その声を聞いてドキッとしました。
(この声は魔法使いだ! ぼくが魔法のことばの何ぺージかをやぶいて盗んだのを知って、とり返しにきたんだ)
でも、そんなこととは知らないお母さんは、大喜びで紳士にウマを売ったのです。
紳士はウマを連れて、宿屋に行きました。
ウマはウマ小屋につながれ、ウマ屋番が見張ることになりました。
ウマになった若者は、ウマ屋番にそっと言いました。
「わたしの手綱をはずしてください。わたしは悪い魔法をかけられてウマにされたのです」
ウマ屋番は驚いて、手綱をはずしました。
そこへ魔法使いが、こわい顔で入ってきたのです。
手綱をはずされた若者は、魔法のことばをとなえて小鳥になると、空へ飛びたちました。
魔法使いも魔法のことばでハゲタカになり、若者を追いかけました。
「こらっー! わしの魔法の本のひみつを返せー! お前は字が読めないと言うから、やとってやったのだ。このうそつきのドロボウめ」
小鳥になった若者は、ハゲタカのツメにひっかけられそうになりながらも、夢中で飛びまわって逃げました。
そしてお城が見えてきたとき、ついに小鳥になった若者は、背中をするどいツメでひっかかれてしまいました。
そのとたんに、若者は金の指輪(ゆびわ)になりました。
金の指輪はクルクルとまわりながら、お城の庭の花園(はなぞの)に落ちて行きました。
そこではちょうど、お姫さまが花園をさんぽしていたので、空からふってきた金の指輪にビックリです。
「まあ、なんてきれいな指輪なの。お日さまの光をリングにしたみたい。そうだわ。おとうさまにお見せしましょう」
お姫さまは指輪をつけてるとニッコリほほえんで、お城へはいって行きました。
若者はホッと安心しましたが、次の日に、あの魔法使いがお城にあらわれたのです。
王さまの病気をなおす医者にばけて、やって来たのでした。
魔法使いは魔法のことばで、たちまち王さまを元気にしてしまいました。
王さまは喜んで、医者になった魔法使いに言いました。
「何でも、好きなものをやろう」
「それでは、王さま」
医者に化けた魔法使いは、お姫さまを横目でジロリと見ていいました。
「お姫さまの指にかがやく、金の指輪をいただきたい」
お姫さまは、ニッコリ笑ってうなずきました。
「ええ、この指輪でしたらさしあげますわ。おとうさまの命の恩人のお礼になるのでしたら喜んで」
と、お姫さまは医者になった魔法使いに指輪をわたそうとして、うっかり指輪を床に落としてしまいました。
指輪は床に落ちてころがりながら、アワの一つぶに姿をかえました。
それを見ると魔法使いは、医者からニワトリになって、アワをつついて追いかけました。
そのとたん、アワはキツネになり、ニワトリの首にかみついたのです。
「キューー!」
ニワトリになった魔法使いは、そのまま死んでしまいました。
そしてキツネになった若者は、美しい王子さまの姿に変身して、お姫さまにいいました。
「わたしは、悪い魔法使いからお姫さまを守るために指輪の姿になっていたのです。悪い魔法使いはやっつけました。もうご安心ください」
それを聞いた王さまとお姫さまは、大喜びです。
そして、王さまが言いました。
「りっぱな若者よ。よくぞ姫を助けてくれた。ほうびに、姫のむこになってはくれまいか?」
こうして若者はお姫さまと結婚して、いつまでも幸せに暮らしたのです。
おしまい