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12月11日の世界の昔話

カンチール 森のかしら

カンチール 森のかしら
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 むかしむかし、ジャングルの中にゾウとトラがすんでいました。
 ある日、いっしょにあるいていますと、
「キーッ、キキーッ!」
と、さわがしい声が、あたまの上からきこえました。
 木のてっぺんで、メガネザルがさわいでいるのでした。
「うるさいな、メガネザルは」
と、ゾウが大きな耳をパタパタさせながらいいました。
「あいつをひとつどなりつけて、木からおとしてやろうじゃあないか」
「きみに、そんなことができるの?」
と、トラがいうと、ゾウはムッとして、
「できるとも! よし、じゃあ、もしぼくの声であいつがおちたら、きみはぼくのけらいになるんだぞ。きみの声であいつがおちたら、ぼくはきみのけらいになるから」
「それはおもしろい。じゃあ、ゾウくんからさきにどなってみたまえ」
 さっそくゾウは、木のほうへむかって、
「パォーン! パォーン!」
と、さけんで、サルをおどかしました。
 ビックリしたサルは、ピョンピョンととびまわりましたが、おちてはきませんでした。
「おや、おかしいな? こんどはトラくんがやってみたまえ。もしあいつがおちたら、やくそくどおりぼくはきみのけらいになるよ。でも、ほんとうにおちないとだめだよ」
 ゾウはトラもだめだろうとおもいながら、そういいました。
 するとトラは、木の下でサルにむかつて、とびつくようなかっこうをしながら、
「ガオーッ! ガオーッ!」
と、すごい声でどなりました。
 こわくなったサルは、ブルブルふるえたはずみに、つかまっていたえだからストーンとトラのまえへおちてきました。
 トラは、ゾウのほうをふりむいて、
「さあこれで、きみがぼくのけらいになることにきまったね」
「・・・ああっ、そうだね」
 ゾウは、とんだかけをしたなと思いましたが、やくそくなので、もうどうすることもできません。
 しょげてうちへかえって、父親のゾウにはなしますと、
「それはこまったことになったなあ」
 父親のゾウは、フーーッと鼻で大きなためいきをついて、
「ゾウがトラのけらいになったら、トラはいばって森じゅうのものたちのかしらになる。トラはらんぼうものだから、よわいものたちをいじめてみんなをこまらせるだろう」
と、しんぱいしていました。
 すると、近所にすんでいるカンチールという小さなシカが、うわさをきいてやってきました。
「ゾウさん、きみがトラのけらいになって、トラが森中のかしらになったら、みんながこまるだろうなあ。これはなんとかしなくちゃあ」
「カンチールさん、なにかよいちえをだしておくれよ」
「よし、しょうちした。じゃあ、すぐにしゅろ(→ヤシ科シュロ属の常緑高木の総称)の木のミツをさがしてもってきてごらん」
 ゾウはとびだしていって、どこからかしゅろのミツのはいったツボをもってきました。
「それをみんな、きみのからだへぬりなさい。よこっぱらや足からは、ポタポタとたれるくらいにね」
 ゾウがいわれたとおりにしますと、カンチールは、
「さあ、きみはぼくをのせてあるいていきなさい。ぼくが背中のミツをなめたら、きみはわざといたくてたまらないように、大きな声でないたり、バタバタとくるしそうなかっこうをするんだよ」
と、いうと、カンチールはゾウにのってでかけました。
 するとむこうから、トラがきました。
 カンチールがゾウの背中をなめますと、ゾウは大きな声でないたり、さわいだりしました。
 カンチールは、
「こんなゾウくらいじゃあ、ものたりないや。大きなふとったトラなら、はらもふくれるだろうが」
と、いいました。
 トラはそれをきいてビックリです。
(あんなやつにつかまったら、たいへんだ!)
と、いそいでにげだしました。
 そのとちゅうで、クロザルにであいました。
「トラさん、そんなにあわてて、どこへいこうとしているのですか?」
「うん、いま、こわいやつにであったんだ。そいつは大きなゾウをつかまえてたべようとしていた。そればかりか、そいつはぼくもたべたがっていたんだ」
 トラがそういいますと、クロザルはニヤニヤわらいながらいいました。
「なんだ。それはきっと、マメシカのカンチールですよ」
「いや、シカだったら、ぼくのからだをのみこめるはずなんてないだろう」
「じゃあ、いっしょにいってみましょう」
と、二ひきはゾウをさがしにいきました。
 すると、ゾウの背中からカンチールが、
「おや? クロザルくん。きみはこのあいだ、ぼくによいたべものを二ひきつれてきてくれるとやくそくしていたのに、一ぴきだけとはおそまつだね」
と、いいました。
 それをきくとトラは、
(やっぱり、たいへんなやつだった。クロザルはぼくをだまして、あいつにくわせようとしたのだ。)
 そうおもうとますますこわくなり、あわててどこかへにげていってしまいました。
 そんなわけで、トラは森のかしらになることができなくなり、おかげでみんなは、あんしんしてくらすことができたのです。

おしまい

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