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12月12日の世界の昔話
  
  
  
  ウシを手に入れるまで
  インドネシアの昔話 → 国情報
 むかしむかし、セレベス島のある村に、ラ・ダナという若者がすんでいました。
   ある時、おそうしきがありました。
   この村では、おそうしきにきた人には、ウシの肉がくばられるならわしでした。
   頭をもらう人、かた方の足をもらう人、どう体をもらう人と、それぞれもらうところがちがいました。
   そこで、ラ・ダナは、ほかのところをもらうなかまにそうだんをもちかけ、いっしょに生きたウシで一頭もらうことにしました。
  「このウシをかって、もっと太らせよう」
   ラ・ダナが言うと、なかまもさんせいしました。
   そして、ラ・ダナが、ウシをかうことになりました。
   ところが四、五日たつと、ラ・ダナがなかまのところへきて言いました。
  「ぼくはウシの肉が食べたくなった。ウシをころそう」
  「せっかくだから、もっと太らせてからにしようよ」
  「いや、やっぱり自分の足をもらうことにするよ。きみたちは、かってにウシをかいな」
   ラ・ダナは、ウシのかた足を切ろうとしました。
  「ま、まってくれ! それじゃウシが死んじゃう」
  「そんなことはしらないさ。ぼくは、ぼくの分のかた足だけもらえばいいのさ」
  「じゃ、きみにもう一本の後ろ足をやるから、今ころすのはやめよう」
  「うーん、そんなに言うなら、もっと太らせてからにしようか」
   ラ・ダナは、自分のとり分が足二本になったのでよろこびました。
   ところが一週間たつと、ラ・ダナがやってきて言いました。
  「やっぱり肉が食べたいから、ウシをころそう」
  「しかたがない。前足をもう一本やるから、もっと太らせよう」
  「いやだ。がまんできない」
  「前足を二本ともやろう。どうだい?」
  「それならいいよ」
   ラ・ダナは、とり分が足四本になったので、よろこんで帰りました。
   ところが一ヶ月たつと、またやってきました。
  「そろそろウシをころそう。長いこと肉を食べていないから、もうがまんできない!」
  「しかたがない。胴体もやるから、もう少しがまんしろよ」
  「よし、それならもっと太らせよう」
   ラ・ダナは、頭だけ残して、ぜんぶもらうことになったので大喜びです。
   ところが一ヶ月たつと、またまたやってきて言いました。
  「年とったお母さんが、ウシの肉を食べたいと言うんだ。今度こそウシをころそう」
   その時、なかまはみんないそがしいしごとで、気がイライラしていました。
  「なんてうるさいやつだ。ウシはみんなきみにやるから、かってにしろ!」
   とうとう、ラ・ダナは、ウシを一頭、まるごと手に入れました。
 そのあと、ラ・ダナは、ウシを殺すどころか、そのままかって、まるまると太らせたのです。
おしまい