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12月13日の世界の昔話
六人の男が世界をあるきまわる
グリム童話 →詳細
むかしむかし、あるところに、ひとりの男がいました。
その男は強くて勇敢(ゆうかん)で、兵士として大かつやくしたのですが、戦争が終わると、あっという間にクビになってしまいました。
男に残ったのは、わずかなお金だけです。
男はわずかなお金をにぎりしめると、決心しました。
「今に見ていろ。家来(けらい)をあつめて、王に国中の宝物を出させてみせる」
男が旅に出ると、大きな木を六本もかかえている男に出会いました。
ものすごい力持ちです。
(すごい男だ。よし、さいしょの家来はあいつだ)
男はさっそく声をかけました。
「やあ、おれの家来になって旅をしないか。かならず、いい目を見させてやるぜ」
「いいだろう」
力持ちの男が家来になりました。
またしばらく行くと、銃を構えて何かを狙っている狩人に出会いました。
「おい、そこで何をしているんだい?」
「二マイル(約3.2キロメートル)先にある木に止まったハエの左の目をねらっているのだ」
男は、この目の良い狩人も家来にしました。
次に出会ったのは、七つの風車(ふうしゃ→詳細)を鼻息で回す男でした。
この男も、家来になりました。
その次は、一本足で立っている男に出会いました。
何でも足が速すぎて、足をひとつはずしておかないと、鳥が飛ぶよりも速く走ってしまうのだそうです。
これで家来は、四人になりました。
最後に会ったのは、小さなボウシをななめにかぶり、片耳をかくしている男でした。
「どうして、片耳をかくしているんだい?」
たずねると、
「おれがボウシをはずしたら、ばかみたいに寒くなって、飛ぶ鳥すらおちてしまうんだよ」
彼は、五人目の家来になりました。
これで一行は六人です。
男は大喜びでいいました。
「この六人がそろえば、世界中をまたにかけられるぜ」
さて、都にたどりつくと、王さまのおふれがありました。
《王女と競走(きょうそう)をして勝った者を、王女のむこにする》
と、いうものです。
ただし、王女に負ければ、命をとられると書いています。
「競争ならまかせてくれ」
そう言ったのは、あの「一本足男」です。
一行は、さっそく王さまのもとへ出かけました。
ルールはかんたんです。
遠くにある泉の水を、王女よりも先にくんで帰ればいいのです。
王女と一本足男はそれぞれ空の入れ物を手に持つと、王さまのかけ声を合図にスタートしました。
ビューーーーン!
一本足男は一本足のままで、あっというまに泉の水をくんでしまいました。
王女は、まだスタートしたばかりです。
「かるいかるい、この勝負、楽勝だな」
水をくんでの帰り道、一本足男はウマの頭蓋骨(ずがいこつ)を見つけると、それをまくらに昼寝を始めました。
さて、王女も競争するだけあってかなり足が速く、すぐに水をくみおえると、昼寝をしている男においつきました。
そして、男のくんだ水の入れ物をひっくり返して、男の水をすててしまったのです。
王女はニッコリ笑っていいました。
「これで、勝負はこっちの勝ちね」
そのようすを見ていたのが、目の良い狩人です。
「これはまずいな。そろそろあいつを起こさないと」
狩人は自慢の鉄砲で、昼寝をしている男のウマの頭蓋骨のまくらをうちこわしました。
「あれ?」
ようやく目をさました男は、ふと、自分の水の入れ物を見ました。
「ああっ、水がカラッポだ! これは本気を出さないと」
一本足男は、はずしていた足を取り付けると、さっきよりも数倍速い足で水をくみなおし、よゆうで王女を追いぬいて帰ってきました。
この結果に、王さまがはビックリ。
「ぬぬっ、まさか、王女が負けるとは・・・」
そして王さまは、彼らをワナにはめることにしました。
「食事の用意ができているから、ゆっくりするといい」
そういって、かべが鉄でできている部屋に閉じこめたのです。
おまけに、外から火をたいて、全員を焼き殺そうとしたのでした。
そのことに気ついた一行は、大いにあわてました。
「あの王さま、おれたちをだましやがったな!」
「それにしてもあつい、あちちち、助けてくれー!」
しかし、余裕の表情で鼻歌を歌っているう男がひとりいます。
あの、ななめにボウシをかぶった男でした。
「ここはおれにまかせな」
ボウシ男がボウシをますぐにかぶりなおすと、今まで熱かった部屋が急に寒くなりました。
さて、こちらは部屋の外にいる王さま。
「さあ、もうそろそろいいだろう。焼け死んだやつらを出してしまえ」
王さまの命令に家来が鉄の部屋を開けると、彼らはふるえながら出てきました。
「ああ、寒かった。中は寒すぎるから、ここで暖まらせてくれ」
これには、王さまはかんねんしました。
「しかたない、王女はやれんが、そのかわり、両手にもてるだけの金を持って帰れ」
その言葉に、力持ち男がニンマリ笑いました。
「それでは王さま。両手にもてるだけの金をもらってかえります」
なんと彼は、両手に国中の金を抱きかかえてしまったのです。
さすがに王さまも、これにはおこりました。
「すぐに兵隊を集めろ! この者たちを殺してしまえ!」
王さまの命令に、何百人ものの兵隊があつまりましたが、ここでかつやくしたのが、風車を鼻息で回す鼻息男。
鼻息男は、おそってきた何百人もの兵士たちを、たつまきのような鼻息でどこかへふき飛ばしてしまったのです。
一人残された王さまに、リーダーの男がいいました。
「王さま。まだ、なにか手はありますかな?」
王さまは首を横にふると、ガックリと肩を落としていいました。
「わしの負けだ。その金を持ってどこかへいってくれ」
こうして、大金を手に入れた六人の男たちは、世界中をぼうけんしながら、面白おかしくくらしたそうです。
おしまい