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12月26日の世界の昔話

馬車で来た十二人のお客さま

馬車で来た十二人のお客さま
アンデルセン童話 → 詳細

 むかしむかしの、風一つないしずかな夜です。
 美しい星たちもこおってしまいそうな、さむいさむい夜です。
♪キンコンカンコーン
 十二時を告げる鐘(かね)が町中になりひびくと、
 バーン! バーン!
と、いきなり花火が打ち上げられました。
 誰かが、まどを開けてさけびました。
「新しい一年よ。ようこそ!」
 すると、つぎつぎにまどが開き、大人も子供もほほえみあって、新年のあいさつをかわしました。
 さあ、それからは乾杯(かんぱい)をくりかえす声や笑い声や歌声、それにダンスの音楽が町中にあふれました。
 新しい一年が始まったばかりのこの町へ、馬車(ばしゃ→詳細)がやって来ます。
 乗っているのは、全部で十二人でした。
 馬車は、町の門の前で止まります。
「やあ、おはよう」
 馬車の中から紳士(しんし)が、町の番人に声をかけました。
「おはようございます。みなさん、旅券(りょけん)をお持ちですか? 町に入るには、旅券を見せていただく決まりになっています」
 番兵がそう言って馬車のドアを開けると、皮のコートを着た紳士がおりて来ました。
「もちろん持っていますよ。ぼくはあなたに新しい朝をあげましょう。ぼくはね、金貨や銀貨、ダンスバーティーやおくり物を人にあげるのが好きなんです。でも、あげられるのは三十一回だけですよ。だって、ぼくにはそれしか夜がないのです。あ、失礼。もうしおくれました、ぼくは一月という者です」
 次に、大きなタルを持った男がおりました。
「わたしゃ、みんなを喜ばせるのがとくいでして。カーニバルを開いてにぎやかにやりましようぜ。なんてったって、わたしの月は二十八日、まあ、一日おまけしてもらう年もありますがね。短い月日はうんと楽しく! わたしはカーニバルの二月でさあ」
 三番目におりてきたのは、やせた男の人です。
 ボタンの穴に小さなスミレをかざり、だまってうつむいています。
 その後から、
「おいおい。三月くん、さっさと行ってくれよ。でないと、君の大好きなお酒が逃げちまうぜ」
 そう言って、三月の背中を押して出て来たのは四月でした。
「いやあ、今のはウソだよ。エイプリルフールだよ。ぼくの月は雨降りだったり、お日さまがごきげんだったりと、へんてこな月でね。結婚式やらお祝いごともたくさんあって、あっという問に過ぎてしまうんだよ」
 おしゃべりな四月を横目で見ながら、緑のドレスをきた美しい女の人がおりて来ました。
「番人さんにも、どうぞ神さまのおめぐみがありますように」
 そう言われて番人は、思わずほほを赤くしました。
 この女の人は、五月の歌姫(うたひめ)です。
 緑の森の小道を歩きながら、やさしい声で歌うことを仕事にしていました。
 次におりてきだのは若い奥さんで、弟の七月をつれていました。
 姉の六月は、ごちそうを作ってみんなを楽しませます。
 弟の七月は、荷物といったら海水ボウシと水泳パンツ。
 たったのそれだけです。
 見るからに元気そうな男の子でした。
 そして、六月と七月のお母さんの、八月婦人もおりて来ました。
 八月夫人はあつがりで、太っていて汗ばかりかいていますが、とても働き者です。
 その後から出て来たのは、絵かきさん。
 この人が絵の具箱を持って森へ行くと、たちまち木々の葉っばは、赤や黄色に変わってしまいます。
 絵かきさんは九月でした。
 続いておりて来たのは、十月の地主(じぬし)さん。
 地主さんの考えていることは、畑の作物のことだけです。
 番人にも、さっそく畑仕事のことを話し始めましたが、
「エヘン! エヘン!」
 十一月のうるさいせきに、じゃまをされてしまいました。
 十一月はひどい鼻かぜで、ハンカチではたりないので、なんとシーツを持っておりて来ました。
「木を切りゃ、かぜなんてなおっちまうんだがね。俺はいつも、木を相手にしていたいのさ。そうそう、早くかぜをなおして、みんなにスケートグツを作らなきゃなんねえんだ。おれのあとの月は、スケートが楽しいからね」
 最後に、火ばちと小さなモミの木をかかえた、十二月のおばあさんがおりて来ました。
「クリスマスまでには、このモミの木も天井までとどくほど大きくなるでしょうよ。そうしたらあかりのついたローソクや、金色のリンゴやおもちゃをかざってやりますよ。それにね、そのモミの木のてっぺんにかざった天使(てんし→詳細)の人形が、金紙のつばさをヒラヒラさせながら、みんなにキスをしてまわるんですよ」
 番人は新しい馬車をよんで、十二人のお客に言いました。
「旅券はおあずかりしておきます。一人ずつ新しい馬車にお乗りください。ただし、この町にいられるのは、一人一月だけの約束です。一月たったら、みなさんがどんなことをしたのか、わたしにどうぞ話して聞かせてください。では、一月さんからどうぞ馬車へ」
 一月はかるく頭をさげて、新しい馬車に乗り込みました。
 さて、一年たったら、十二ヶ月のお客からどんな物語を聞かせてもらえるのでしょうか、たのしみですね。

おしまい

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