きょうの日本民話
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8月10日の日本民話

手なし嫁
おすみの継母

手なし嫁
岐阜県に伝わる弘法大師話

 むかしむかし、飛騨の国(ひだのくに→岐阜県)の吉城郡(よしきごおり)のある村に、吉右衛門という長者がいました。
 長者には先妻の子どもで、おすみという美しい娘と、後妻の子どもで、お玉というみにくい娘がいました。

 さて、ある日の事、隣村の長者の太郎兵衛から使いの者が来て、
「ぜひとも、おすみさまを嫁にほしいのです」
と、言ってきたのです。
 それを知った継母は、自分の子どものお玉を長者の嫁にやりたいと思う気持ちから、おすみを殺してしまおうと考えたのです。
(おすみさえいなれけば、隣村の長者は、きっと、お玉を嫁にもらってくれるはず。なにしろ他の家の嫁では、つり合いが取れないからね)
 そこでまま母は長者が旅に出たのを見計らって、数人の男に山でおすみを殺すよう命じたのです。
 男たちは嫌がるおすみを山へ連れて行くと、まずは両手を切り落としました。
 すると、おすみが、
「どうか、命だけはお助けてください。もう二度と、家へは帰らないと約束しますから」
と、泣いてすがったのです。
 男たちも、おすみに恨みがあったわけではないので、おすみを殺さずに帰っていきました。
 両手を失ったおすみは、その場でしばらく泣いていましたが、ふとおすみの耳に、こんな声が聞こえてきたのです。
「仏さまは、あなたを見捨ててはいません。幸せになりたいのなら、旅に出なさい」
 それを聞いたおすみは、その声が弘法大師の声だと確信しました。
「お大師さま、お導きをありがとうございます」
 おすみは泣くのをやめて立ち上がると、四国八十八ヶ所へ遍路(へんろ)に出ることにしたのです。

 両手をなくしたおすみには大変な旅でしたが、おすみは弱音一つ吐かずに頑張りました。
 そして旅を続けて数日が過ぎた頃、おすみは山の中で猟犬に吠え立てられました。
 そしてその猟犬の後から、立派な若者が出てきました。
 この若者こそ、おすみを嫁にほしいといった長者の息子だったのです。
 長者の息子は、おすみの継母におすみが死んだと聞かされてがっかりしていたのですが、悲しい気持ちを紛らわす為に、猟犬を連れてこの山に猟に来ていたのです。
 息子がおすみを家につれて帰ると、娘は今までの出来事を語りました。
 それを聞いた息子も長者も、びっくりしましたが、
「何事も、縁が大事。
 あなたに嫁に来て欲しいと言ったのも、ここでこうして出会ったのも、お互いに深い縁があったからでしょう。
 手がなくてもかまわないから、どうか息子の嫁になってくだされ」
と、言ってくれたのです。
 そして立派な祝言をあげると、二人はめでたく夫婦になり、間もなく玉のような男の子も授かりました。

 そんなある日の事、おすみは手が生えるように願をかけて、再び四国八十八ヶ所へ遍路に行きたいと言い出したのです。
 長者も息子も心配しましたが、おすみの決心は固くて止める事が出来ませんでした。
 おすみは子どもをおぶって四国巡りを始めましたが、背負われた子どもがひもじがって泣くので、お乳をあげようと子どもを下ろそうとした時です。
 おすみはうっかり、子どもを背中から落としてしまいました。
「あっ、いけない!」
 おすみはとっさに無くなったはずの手を伸ばして、子どもを受け止めました。
 そして子どもを受け止めてから、自分に手がある事を知ってびっくりです。
「て、手が、わたしの手がある!」
 いつの間にかおすみの両肩から、両手が生えていたのです。
「ああ、お大師さま。ありがとうございます」
 おすみが涙をこぼして喜んでいるところへ、心配した長者の息子が追いかけて来ました。
 二人は大喜びで大師に感謝して家に帰ると、それから仲良く幸せに暮らしました。

 その一方、おすみに両手が生えたその日、継母の両手が突然に無くなったという事です。

おしまい

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