9月1日の日本民話
善光寺の本柱
長野県の民話
長野県にある善光寺(ぜんこうじ)という大きなお寺の本堂が焼けたのは、いまから七百年ほど前の三月二十二日と言われています。
お寺のお坊さんをはじめ、たくさんの信者たちはなげき悲しみましたが、すぐに新しい本堂をつくることに決めました。
さて本堂の本柱には、高くて丈夫で太い、立派な木の幹でなければなりません。
そこであちこちの山を探して、やっと高くて丈夫で立派で太い木を見つけました。
その木を本柱にすることに決めて、きこりたちが木を切り倒し、きれいに枝葉を払い落とししましたが、ここまで大きいと運びだすのが大変です。
大木に何本も縄をかけて、何十人もの力持ちがかけ声をかけあいながら、すこしずつ山の尾根づたいに引き出しましたが、やっと四、五百メートルほどひいたところで、うっかり大木を谷底へ落としてしまったのです。
「しっ、しまったー!」
谷は深く両岸はけわしく切りたっているので、どうしても引き上げることができません。
「これほどの木は、そうあるものではない。このまま善光寺の本堂の役に立たずに、こんなところで腐っていくのはもったいない。この木も無念に思っておるだろう」
きこりの親方や木を運び出す親方たちが谷底に集まって、残念そうに話しあっていました。
するとそのとき、谷底に横たわっていた大木が、ぶるぶるとふるえだしました。
木のふるえはますます大きくなって、まわりの雑木林の木までがふるえはじめました。
「こ、これは、どうしたんじゃ!」
親方たちがびっくりしていると、大木は静かに浮きあがって、けわしい谷底から善光寺めざして飛んでいったのです。
木を引っぱるために大木に結んであったたくさんの縄が風になびいて、まるで竜のひげや脚のように見えます。
田んぼや畑で仕事をしていたお百姓たちは、空を見あげながら、
「竜が飛んでおるぞ!」
と、声をあげて驚きました。
こうして谷底に落ちてしまった大木は、自分の力で善光寺まで飛んでいき、本堂の本柱になったのです。
おしまい
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