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2月7日の小話
かけ値
ある日、店の旦那が小僧に、お客に品物を売りつける時のコツを教えてやりました。
「いいか、お前は品物を売る時、かけ値をつけずに売ろうとするだろう。
だからなかなか、商売がうまくいかないんだ。
品物と言うのはな、一文で売ろうと思う時には、二文と高く値をつけておく。
五文で売ろうと思う時には、十文と高く値をつけておくがいい。
そしてお客がまけろと言ったら、少しずつ値段を下げていくんだ。
これをかけ値と言ってな、商いをする時の大事なコツなんだ。
いいか、わかったな。
これからは、全てこの要領(ようりょう)でやるのだぞ」
さて、それから何日かたったある日の事。
近所で、
「火事だ!」
と、騒ぎ出したので、小僧が急いで屋根の上にあがりました。
そこへ旦那がやって来て、
「おい、火事はどこだ?」
と、聞きました。
すると小僧が、
「はい、五、六丁(→約五、六百メートル)も南でございます」
と、答えました。
「ほう、そんなに遠くなら安心だな。・・・しかし、それにしては騒ぎが近いような気がするが」
「はい、かけ値をつけて言ったので、実はもう少し近いです」
それを聞いた旦那が怒って、小僧を怒鳴りつけました。
「たわけ者! 火事をかけ値で言う奴があるか!」
すると小僧は、こう言い直しました。
「では、かけ値をつけずに申します。
火事は、すぐ目の前の五、六軒先でございます。火の手がどんどん大きくなって、あらら、ついにこの家の屋根にも飛び火しましたよ」
♪ちゃんちゃん
(おしまい)
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