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2月29日の小話
ただ
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
投稿者 笑駄元気の声
ある日、お調子者の松さんが、隠居の家に遊びに行きました。
「ご隠居、ご隠居はいますか?」
「おや、これは珍しい。誰かと思えば松さんかい。さあ、あがんな、あがんな」
「はい、それではあがらせてもらいます。しかしご隠居は、いつもお若いですね」
「いやいや、もう若くはないよ」
「でも、五十四か五でございましょう?」
「いやいや、わしも、もう七十になった」
「へーっ、そうですか。とても、そんなお年には見えませんね」
「そうかい、そうかい。おせじでも、うれしい事を言うねえ。まあ、酒でも一杯飲んで行きなさい」
こんな調子で松さんは、うまくごちそうになる事が出来ました。
しかし松さんは、まだ飲み足りない様子です。
そこで友だちの太郎兵衛(たろうべえ)に、子どもが生まれたのを思い出して、
「あそこに行って、適当にお祝いを言えば、もう一杯ぐらいは飲めるだろう」
と、出かけていきました。
「こんにはち。この度は、ご安産(あんざん→子どもが無事に生まれる事)で、おめでとうございます」
松さんが言うと、太郎兵衛はうれしそうな顔で、
「おお、松さん。ほれほれ、見てくれ、ついに念願の男の子が産まれたんだ」
と、赤ん坊をを見せてくれました。
そこで松さんは、そろそろ酒を飲ませて貰おうと思い、得意のお世辞を始めました。
「さてさて、これはお若いお子さまだ。して、おいくつでございますか?」
それを聞いた太郎兵衛は、不思議そうな顔で言いました。
「おや? お前さんもおかしな男だな。おととい生まれたから、たったの一つ(→数え年では、0才ではなくて、1才です)だ」
「おお、とても一つには見えませんな。わたしはまた、ただかと思いましたよ」
おしまい
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