|
|
福娘童話集 > きょうの江戸小話 > 6月の江戸小話 >つかの間の二万両
6月1日の小話
つかの間の二万両
ある田舎に、とても貧乏な男がいました。
いくら働いてもお金がたまらないので、男はおかみさんを家に残して江戸へ出かせぎにいきました。
何年も頑張って働きましたが、けれどお金が貯まりません。
「どうしたものか。何か一儲け出来ないかな?」
男は考えに考えて、ある名案を思いつきました。
「そうだ。江戸にはこんなに人がいるのだから、漬け物だってそうとうに食うだろう。
漬け物作りには、漬け物石がかかせん。
よし、漬け物石を売り歩こう」
漬け物石にする石は、川に行けばいくらでも転がっています。
元がただだから、もし売れればぼろもうけです。
男はさっそく、元手いらずの商売をはじめました。
けれどやっぱり、漬け物石はさっぱり売れません。
「困ったな。もう一文も残っていないし。・・・ええい、こうなればもうやぶれかぶれだ!」
男は拾ってきた石の中からきれいなのを選んで、ていねいにふろしきに包むと、立派な宿屋にあがり込みました。
やけを起こした男はここでさんざん贅沢をしてから、宿代をふみ倒して逃げるつもりです。
「おほん。これは大事な物だから、決して誰もさわらんでもらいたい」
男は石の入ったふろしき包みを床の間に置くと、酒とごちそうをたらふく食べました。
さて次の朝。
男が朝風呂に入っている間に、宿のおかみさんが掃除にきました。
そして床の間のふろしき包みを、置きかえようとしたときです。
むすび目がとけて、中の石がゴロッと転がり出ました。
するとその石が朝日を反射して、ピカピカと光り輝くではありませんか。
おかみさんはビックリして、すぐさま主人に知らせました。
「お客さんが、大きな金剛石(こんごうせき→ダイヤモンド)をお持ちです。是非ともゆずり受けて、家の宝物にしましょう」
「金剛石か! よしわかった」
主人はさっそく、男に頼みました。
「お客さま。どうかお持ちの石を、千両(せんりょう→七千万円)でおゆずりください」
「はあ?」
男は、あっけにとられました。
ただで拾ってきた石ころが千両だなんて、いくらなんでも高すぎます。
「そんな値段では、とても売れません」
男は正直に、『これは拾ってきた物です』と言うつもりでしたが、主人は勝手に勘違いして値をつりあげました。
「では、一万両(→七億円)ではいかがでしょう?」
「いやいや、だから、そんな値段ではとても」
男がうろたえると、主人はますます勘違いして、
「それでは思い切って、二万両(→十四億円)でどうでしょう?」
と、大変な値をつけました。
「よし、売った!」
男は大喜びで二万両を受け取ると、大急ぎで我が家へ帰りました。
ところが家は空っぽで、誰もいません。
「おかしいな。あいつ、どこへ行ったんだ?」
いつまで待ってもおかみさんが帰ってこないので、男が近所の人に話を聞くと、何とおかみさんは男が出かけた後に急な病で死んでしまい、今はお墓に入っているとの事です。
「何だ、せっかく大金持ちになって帰ってきたというのに。・・・せめて、墓まいりをしてやろう」
男がお墓にいくと、草がぼうぼうです。
「まずは、草むしりだ」
男が草をむしりはじめると、
「いたたたたっ」
と、声がしました。
「へんだなあ? 草がものを言うわけがないし、気のせいだろう。もっとまとめて引っこ抜いてやるか」
男がひとまとめにした草を、力まかせに引き抜こうとすると、
「お前さん! あたしの大事な髪の毛を抜いて、どうする気だい! ねぼけないでおくれ」
と、聞き覚えのある、おかみさんの声がしました。
「あれ? おれのかみさんは、とっくに死んだはずだが?」
男が目をこすって見回すと、そこは我が家のえんがわでした。
「あちゃー。どうりで話がうますぎると思ったら、昼寝の夢か」
男はあくびまじりに、大きなためいきをつきました。
♪ちゃんちゃん
(おしまい)
|
|
|