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第 32話
おしっこをかけられた神さま
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むかしむかし、富山のある村の神社の大杉の下で、近くのお百姓たちがひと休みしていました。
お百姓たちが話に花をさかせていると、タバコの火が風にあおられて、杉の大木の皮に燃えうつったのです。
「これは大変じゃ! はやく消すんじゃ!」
お百姓たちはあわてましたが、近くに水などありません。
そこで神社の小便桶にたまっていた小便をかけて、なんとか火を消したのです。
すると、その夜のことです。
お百姓の中で一番年をとった、ひこじいさんの夢に不思議な老人が現れて、こんなことを言ったのです。
「われは、神社の神である。お前たちが小便で神木をけがしたので、われはとなり村へ移ろうと思う。豊左(とよざ)の家の馬に乗っていくから、お前がいって馬を連れてくるのじゃ」
ひこじいさんはふとんの上にひれふして、神さまに何度もおわびをしました。
「おねげえです。どうか、となり村へ移らないでくだせえ」
ですが、神さまは聞きいれてくれません。
ひこじいさんはしかたなく、豊左のところへいって馬を連れてきました。
ところが神さまを乗せて峠の途中までいくと、馬が急に地面へ座り込んでしまったのです。
「どっ、どうしたんじゃ?」
ひこじいさんは馬のたづなを引きましたが、馬は立ちあがろうとしません。
すると神さまの声が、聞こえてきました。
「今夜はここまででよい。お前は家に帰ってよいぞ」
「はあ、では」
と、ふかく頭をたれたところで、ひこじいさんは目をさましました。
夜が明けると、ひこじいさんは夢の話をしようと、豊左の家へ出かけていきました。
すると豊左の家の馬が、夜中に急に脚を痛めて苦しみだしたというのです。
ひこじいさんは、不思議なこともあるものだと思いながら、家にもどってきました。
その夜、ひこじいさんの夢に、また神社の神さまが現れました。
「豊左の家の馬のことは、心配するでない。四、五日もすれば治る。そしたらまた、お前が連れてこい。われはまだ、峠の途中までしかいっておらん」
次の朝、ひこじいさんは村のみんなと相談をして、小便をかけた杉の大木をきれいな水で洗って、神主さんにお願いをして、おはらいをしてもらいました。
その夜、また神さまが夢に現れて、
「お前たちのわびごとは、聞きいれた。これからもずっと、われはこの村にいることにする」
と、いって、それからは二度と、ひこじいさんの夢に神さまは現れなかったそうです。
おしまい
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