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第 38話
かますキツネ
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むかしむかし、馬に炭やまきを背負わせて売り歩く男がいました。
男の名前は、長右衛門(ちょううもん)といいます。
ある日の夕方、長右衛門が馬にたくさん荷物をつけて、峠にさしかかったときです。
木のかげからひょこんと、小僧さんが飛び出て来ました。
そして、長右衛門に言いました。
「あの。寺に行きたいんだけど、くたびれたから、馬に乗せてくんねえか?」
長右衛門は、首をかしげました。
(はて、この小僧さん。言葉も様子も変だ。これは、もしかして)
そこで長右衛門は、こう言いました。
「乗せてやるのはかまわないけど、今日は炭やまきの他に、一箱たっぷりの油あげを積んでいるんだ。とても人が乗れる場所はないなあ」
すると小僧さんは、ごくりとのどをならして、
「乗れる、乗れる。大丈夫だ」
「そうか、しかしな」
「大丈夫、大丈夫」
「まあ、そんなら荷物に気をつけてな」
長右衛門は小僧さんをひょいと抱きあげると、荷物の後ろに乗せました。
でもそのとき、小僧さんの手足が毛だらけなのに気づきました。
(ありゃ、やっぱりな。こりゃ、油あげをやられちまうな)
長右衛門は小僧さんをチラリと見ると、すまして言いました。
「峠の道はゆれるから危ねえ。落ちて怪我をしないように、こうしよう」
長右衛門は嫌がる小僧さんの両方の足を、なわで馬のくらにしっかりむすびつけました。
これで、馬から下りることも逃げることもできません。
長右衛門はニヤリと笑うと、
「さあ、行こう」
と、馬をひいて、峠の道を村へと急ぎました。
村の灯りが見えてくると、馬の上で小僧さんが何度も叫びました。
「もう、ここでいい! いいから、下ろしてくれ! 足のなわほどいてくれ!」
「いやいや、せっかくだから、おれの家で休んでいけや」
長右衛門は後ろも見ずに、そう答えて家に連れ帰りました。
そして戸を開けるなり、おかみさんに言いつけました。
「おーい、客が見えたぞ。いろりに火つけろ」
「はーい」
おかみさんは大急ぎで、いろりに火をつけました。
それから長右衛門は小僧さんを馬からおろすと、素早くなわで手足をしばって、いろりの火の上に連れて行きました。
そして長右衛門は、小僧さんのおしりをじりじり火であぶったのです。
「あち、あち、あちぢー!」
小僧さんはたちまち、キツネの正体を現しました。
「やっぱりな。さあ、このイタズラギツネめ、覚悟をしろよ」
するとキツネは、泣きながら長右衛門に頼みました。
「かんにんしてくれ。もう悪さはしねえから」
「いや、だめだ。お前は、おれたちの夕飯になるんだ」
長右衛門はそう言うと、再びキツネのお尻を火であぶりました。
「うひゃー! おら、本当に峠から引越すから、助けてくれー!」
それを聞いた長右衛門は、キツネがかわいそうになって、キツネを火から離してやりました。
そのとたん、キツネは開いていた戸から外へ飛び出して、夜の闇の中に見えなくなりました。
「やれやれ、いいおしおきだったわい」
長右衛門は笑って、外の馬から荷物を下ろし始めました。
すると、
「ありゃりゃ」
一箱買ってきたはずの油あげが、一枚もないのです。
「あのキツネめ、足がしばられていたのに、しっかり食っちまったんだな」
そう思うと腹がたちましたが、もう捕まえることもできません。
それに、どこで叫んでいるのか、
♪長右衛門のけつあぶりー
♪長右衛門のけつあぶりー
と、村中にひびくような大声で、キツネが悪口を言ったのです。
それから村人たちは長右衛門のことを『長右衛門のけつあぶり』と呼ぶようになったということです。
おしまい
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