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第 46話
照島神社(てるじまじんじゃ)
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むかしむかし、串木野(くしきの)という所に、一人の漁師が住んでいました。
毎日朝早くから沖に舟を浮かべて魚を釣って暮していましたが、ある日の事、男はいつものように朝早くから魚釣に出かけましたが、なぜかその日に限って、魚一匹かからないのです。
もうすぐ昼過ぎだというのに、男のびくの中は空っぽでした。
「ああーっ、今日は運の悪か日じゃ」
男はとうとう糸を引く手を休めて、ぼんやりしていると、はるか向こうの方に、何やら小舟のようなものが浮いているではありませんか。
しかし小舟には、人影らしきものが全く見あたりません。
男は不思議に思って、小舟に近づいていきました。
その舟は奇妙な舟で、どちらが前か後ろかわかりません。
両方とも同じ形で、舟体は朱塗り、ところどころに青や緑の色も使っており、それはそれは変わった舟でした。
男は首をかしげながら、ひと回り調べましたが、
「まあ、帰りにでも引いて帰ろう」
と、その舟から離れて、また近くで釣糸をたれました。
ところがどうでしょう。
釣れるわ、釣れるわ、今まで一匹の魚もかからなかったのが信じられないほどの大漁です。
「あの舟を見たせいじゃろか。魚がひとりでに、舟に飛び込んでくるようじゃわい」
男は夢中で、魚を釣りました。
そして気がついたときは、もう夕方になっていました。
「ああっ、大漁じゃ。さあ、この辺で引き上げようかい」
と、ふと、あの舟の方をふり返ってみた男は首をかしげました。
「おや、いつの間に、どこへ流されてしもうたんじゃ。影も形も見えんが。・・・まあ、不思議なこともあるもんじゃ」
男はそう言いながら家へ帰り、村の者にこのことを話してきかせました。
すると驚いたことに、
「わいも見たぞ」
「ああ、わいも見た。見た後、魚が急にとれ始めたわい」
「全く不思議じゃのう。ひょっとすると、七福神の宝舟かもしれんど」
と、いう者が次々と出てきて、村はその舟の噂でもちきりになりました。
さて、ある日の夕方、あの舟がまた現れました。
夕日をいっぱいに受けたその舟は、神々しいまでに光り輝いていました。
ところがその翌朝になると、なんとその舟は照島(てるじま)の横に流れ着いていたのです。
村の者たちは、それからこの舟を漁業の守り神として祭ることにしました。
これが照島神社で、それからというもの村では毎日のように大漁がつづいたということです。
おしまい
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