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第 313話

鮭の大介・小介

鮭の大介・小介
新潟県の民話新潟県情報

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 むかしむかし、信濃川が海にそそぐあたりの町に、とても大きな屋敷に住んでいる長者がいました。

 ある年の十一月十五日の事。
 長者がふと海を見ると、船が一隻も出ていません。
 川を見ても、誰も漁をしていません。
 長者は、番頭に尋ねました。
「一体どういうわけで、皆は漁の仕事を休んでいるのだ?」
「はあ、今日は鮭の大介・小介が、信濃川へのぼって来る日ですから」

 その当時、信濃川では毎年十一月十五日になると『大介』と『小介』と呼ばれる鮭の夫婦が、鮭の群れを引き連れて信濃川を上って来るのです。
 その大介と小介がやって来る日は、どこからか『大介、小介、いまのぼる』と聞こえて来るそうです。
 大介と小介は人よりも大きな大鮭で、銀色のうろこをしています。
 この辺りの漁師たちは大介と小介を鮭の殿さまとあがめて、この日は決して漁をしないどころか、姿を見るのも恐れおおいと、多くの人が家にこもって外に出ようともしないのです。

「そうか、そう言えば今日は、十一月十五日じゃったな。
 しかし鮭の殿さまと言っても、しょせんはただの魚じゃ。
 そんな物の為に一日仕事を休んでは、もうけが一日分少なくなる。
 今年はがまんをしてやるが、来年はそうはいかんぞ」

 次の年の十一月。
 長者は漁師たちを集めて言いました。
「よいか、今度の十五日は、決して仕事を休むでないぞ! それどころか信濃川に網をおろして、大介と小介を捕まえるのじゃ!」
 それを聞いて、漁師たちはびっくりです。
「だんなさま、どうかそればかりは許してくだされ」
「そんな事をすれば、どんなたたりがあるか」
 漁師たちは口々に言いましたが、長者は聞く耳を持ちません。
「ならん! お前たちが恐れているのは、ただの魚じゃ! それともお前たちは、このわしに逆らうつもりか!?」
 長者がその気になれば、漁師たちはこの信濃川で仕事をする事は出来ません。
「・・・しかし」
「いいな! 必ず大介と小介を捕まえるのじゃ!」
「・・・はい」
 漁師たちは、しぶしぶ承知しました。

 いよいよ、十五日になりました。
 長者は漁が見渡せる場所へ桟敷(さじき)を組ませると、準備を終えた漁師たちに合図をしました。
「それ、網をうてい!」
 長者の合図で、多くの網が一斉におろされました。
 しかし不思議な事に網を引き上げてみると、網には魚がただの一匹もかかっていません。
「そんな馬鹿な? この時期に魚が一匹も捕れないはずがない。・・・ええーい、もう一度、網をうてい!」
 長者の合図に漁師たちは何度も網をおろしましたが、網には鮭どころか雑魚さえもかかりません。
「だんなさま、どうかもう勘弁してください」
 怖くなった漁師たちは、舟を引きあげると逃げる様に帰って行きました。
 それにつられて、集まっていた見物人たちも、
「おれたちもたたられないうちに、早く家に帰ろう」
と、みんな帰って行きました。
 その場にただ一人残された長者は持ってきた酒を一気に飲み干して、信濃川をにらみつけました。
「くそー! いまいましい。しかし来年こそは、必ず捕まえてやる!」
 そして長者が帰ろうとすると、白髪が銀色に光り輝く一人の老婆が現れました。
(お前は、何者だ!?)
 長者はそう言おうとしましたが、不思議なことに声が出ません。
 いえ、声だけでなく、金縛りにあった様に指1本動かすことが出来ません。
 老婆は、動けない長者に言いました。
「長者よ。残念だがお前に、来年は訪れぬ」
 そして老婆は、そのままゆっくりと川の中へ入って行きました。
 すると間もなく、どこからか不思議な声が響いてきました。
『大介、小介、いまのぼる』
 すると鮭の大介と小介を先頭に、何千何万匹の鮭の群れが信濃川をのぼって行ったのです。

 次の朝、漁師たちが川にやって来ると、口から泡を吹いて死んでいる長者の死体があったそうです。

おしまい

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