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第 314話
吉祥姫(きっしょうひめ)
島根県の民話→ 島根県の情報
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※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
むかしむかし、光仁天皇(こうにん)が眠っていると、夢の中に神さまが現れて言いました。
「この絵と、くつを持って国中をまわられよ。さすれば、この世にまたとない美しい姫を授かるであろう」
天皇が目を覚ますと、枕元に一枚の絵と、くつが置いてあります。
(夢のおつげ?)
天皇は、枕元の絵を見てびっくりしました。
(これは、何と美しい姫だ)
絵に描かれているのは美しい女の人で、その笑顔はまるで女神のようです。
天皇はさっそく、その絵とくつをみこしに乗せて国中をまわる事にしました。
そして新しい国へ着くたびに、家来の一人が大声で叫びます。
「このみこしの中には、ありがたい絵と、くつがある。これを拝む女には必ず幸せが訪れようぞ。幸せを願う女は誰でも構わぬから、ここに来て拝むがよい」
それを聞くと、女の人たちが我先にと集まってきました。
家来たちは集まった女の人たちの中から絵とそっくりな女の人を探そうとしましたが、どこの国へ行っても絵の女と同じ顔はありません。
天子の一行は、出雲の国(いずものくに→島根県)にやって来ました。
ちょうど田植えの頃で、まわりの田んぼでは大勢の人が働いています。
家来は田んぼにいる女の人たちに向かって、声を張り上げました。
「このみこしの中には、ありがたい絵と、くつがある。これを拝む女には必ず幸せが訪れようぞ。幸せを願う女は誰でも構わぬから、ここに来て拝むがよい」
その声を聞くと、女の人たちが我先にと集まって来ました。
家来たちは集まった女の人たちの顔を一人一人調べましたが、やはり絵とそっくりの顔はありません。
(ここにも、おらぬか)
ところがふと田んぼを見ると、若い娘が一人で田植えを続けているのです。
家来は不思議に思って、娘に尋ねました。
「これこれ、お前は幸せになりたくはないのか?」
すると娘が泥だらけの顔を上げて、田植えを続けながら言いました。
「わたしだって、幸せになりたいと思います。でも、ここの田んぼで働かせてもらっている身分では、一時だって手を休めるわけにはいきません」
家来がさらに話を聞くと、娘の父は早くになくなり、病気の母を養うために、こうしてあちこちの田んぼへ働きに出ているというのです。
まじめな娘にすっかり感心した家来は、娘にお金をあげようと思いました。
「娘よ、これをそなたにあげよう。母親の薬代にでもしてくれ」
家来が紙に包んだお金を差し出すと、娘は顔に付いた泥を拭き取って家来に深々と頭を下げました。
「ありがとうございます」
その時、娘の素顔を見た家来はびっくりです。
「そ、その顔は・・・」
泥を拭き取った娘の顔は、何とあの絵の女とそっくりだったのです。
家来はすぐに娘をみこしの所へ連れて行くと、天皇に事情を話して神さまから頂いたくつをはかせてみました。
すると、これもぴったりです。
「これぞ、探し求めていた姫に間違いない」
天皇は大喜びで、さっそく娘を都へ連れて行くと、おきさきとして迎えました。
その後、娘は吉祥姫(きっしょうひめ)と名前を変えて、やがて天皇の子どもを生んだという事です。
今でも出雲の国には、この吉祥姫の墓があるそうです。
おしまい
→ 吉祥姫の美女伝説
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