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3月20日の日本民話
だきついてくる白骨
岐阜県の民話
むかしむかし、美濃の国(みののくに→岐阜県)に、長間佐太(ながまのさた)という武士(ぶし)がいました。
将軍を守るため京の都へ行ったのですが、戦(いくさ)のおわったあと、つくづく武士がいやになりました。
(人と人が争うとは、なんとおろかな事だろう。もはや二度と武器は手にしたくない)
そう心にきめた佐太(さた)は、国へはもどらずに武士の身分をすてると、草ぶきの小屋をたてて、たった一人で住む事にしたのです。
だからといって、元武士が乞食(こじき)をするわけにもいかず、近くの山でしばを買い求めて、それを町へ売りに行って暮らす事にしました。
まずしい暮らしでしたが、佐太には心の休まる毎日でした。
わずかなお金で安物の酒を買い、心ゆくまで山をながめ、月を見ては歌をよむ。
ときには町の寺へ行って庭を掃除し、日が暮れればお堂の下でねむり、夜が明ければしばを売って歩く。
あまりにもひどい生活に、むかしの仲間が金と食べ物を佐太にあげようとしても、
「寝るところも食べるものもその日まかせ、何もないほうがよほど気らくだ」
と、いって、受けとろうとしません。
そんな佐太がある晩、墓地の近くを歩いていたら、目の前の古い墓がいきなり二つにわれて、中からたいまつのような明かりがもれてきたのです。
ビックリしましたが、佐太はもともと、すご腕の武士です。
顔色も変えずに、
「はて、何事だ?」
と、墓の中をのぞいてみたら、白骨(はっこつ→ガイコツ)になった人間がムクリと起きあがり、佐太にだきついてきたのです。
「拙者(せっしゃに)に、何か用か?」
と、たずねてみても、白骨はだまったまま、佐太を墓の中へ引きずりこもうとします。
「いかに世捨て人とて、まだ死ぬわけにはいかぬ」
佐太が力まかせにつきとばすと、白骨はあっけなくあおむけにたおれて、たおれたはずみに骨がバラバラになってしまいました。
それと同時に明かりが消えて、あたりはふたたびまっくらです。
しかたなくその場をはなれた佐太は、ゆうべの出来事が気になり、翌朝ふたたびもどってみると、墓はくずれて白骨がちらばっていました。
「拙者にまでだきつくとは、よほどくやしいことがあったにちがいない」
佐太はちらばった白骨を拾い集めて墓にもどすと、どこへともなく歩いていったという事です。
おしまい