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5月30日の日本民話

六助いなり

六助いなり
京都府の民話

 むかしむかし、京都の峰山(みねやま)の近くに、六助(ろくすけ)という、かやをかるのを仕事にしている働き者の男がおりました。
 六助は奥さんのおいちと二人で、山のかやをかってきては、それを売ってわずかなお金をもらってくらしています。
 この六助は働き者の上に、とても親切な男です。
 ある日の事。
「おや? こんなところに、キツネの巣穴(すあな)があるわい」
 それを聞いた、奥さんのおいちは、
「さわらない方がええよ。たたりがあるかもしれねえから」
と、いうと、六助は笑いながらいいました。
「なに、たたりなんかあるもんか。見ろ、こんなにかやがおいしげっておるじゃろう。これじゃ中は暗いし、お月さまもおがむことができめえ。いまおれがそうじしてやるからな」
 そういって六助は、キツネの巣穴のまわりのかやをきれいにかりとってあげました。
「ほれ、これでさっぱりしたじゃろ。さて、はらもへったで帰るとしよう」
 その日の、夜の事です。
 ねむっている六助とおいちのところに、キツネがやってきて言いました。
「今日はご親切に、そうじをしてくれてありがとう。おかげで、お月さまをながめながらねむれるようになりました。お礼に、いいことを教えましょう。あと十日もすると、京の伏見(ふしみ)のおいなりさんに富くじがあります。それを買うといいですよ。きっと大当たりしますから」
 キツネはこういうと、帰っていきました。
 とてもいい話ですが、それを聞いた二人は、それを信じようとはしませんでした。
「富くじなど、なかなか当たるもんでねえ。第一、そんな物を買う金がどこにもねえ」
「本当にねえ。おほほほほほほほ」
 でも次の日も、そのまた次の日も、キツネはやってきていうのです。
「富くじを買え、本当に当たるぞ」
 何回もそういわれると、二人はだんだんとその気になってきました。
「もしも富くじが当たれば、金や米がぎょうさん手に入るな」
「でもあんた、伏見までいくお金がないよ」
 するとその夜、またキツネが出てきていいました。
「伏見までのお金は、戸やしょうじを売ってつくればええ」
 それを聞いた二人はなるほどと思い、さっそく家の戸やしょうじを売ってお金を作ると、伏見へと向かいました。
「よしよし、金がぎょうさん手に入ったらどうするかな? まずは立派な家をたてて、ええ着物きて、おいちにもいっぱい着物を買うてやろう。それからそれから・・・」
 六助は七日かかって、やっと伏見につきました。
 だけど、町の中はシーンとしています。
 六助は、通りかかったおじいさんにきいてみました。
「あの、おたずねしますが、富くじはどこで売ってるんで?」
「へえ? 富くじ? それは来年の二月二日の午の日のことかいな。その日に市がたち、富くじが売られるんじゃが、まだ一年も先のことだよ」
「・・・はあ?」
 六助はしかたなく、家にもどっておいちにわけを話しました。
 それを聞いたおいちは、まっ赤になって怒りました。
「わたしは、お前さんがお金をたくさん持ってくると思って楽しみにしておったのに。戸もしょうじもないこの家で、寒いのをがまんして待っておったんよ。どうしてくれるの!」
「そんな事いうなら、お前がいってこい!」
 二人はたちまち大げんかです。
 そのようすを見て、天井のはりの上からキツネが顔を出していいました。
「やーい、六助。よーく聞け! お前はわしらの巣穴の大切なかやをかったじゃろ。おかげで、わしの家には風がスースー入り込んで、おちおちねむることも出来なくなったんだ! お前たちも戸やしょうじがなきゃ、わしらとおなじ気持ちだろう。どうだい、ねながらお月さまを見る気持ちは。けっけけけけけけけけ」
 それを聞いた六助は、おいちに言いました。
「ああ、こっちは親切のつもりでやったんじゃがのう、キツネにとっちゃあ、ありがためいわくだったんだなあ。悪いことをした。明日、キツネの巣穴の前に戸を立ててこよう」
 次の日、六助はキツネの巣穴の前に、大きな石をおいて帰りました。
 その石を道ゆく人は「六助いなり」といって、おがんでいくようになったという事です。

おしまい

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