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6月13日の日本民話
宝箱をとりもりどしたネコ
北海道の民話
むかしむかし、あるところに、まずしい男が住んでいました。
毎日毎日、山へ出かけてはシカやクマをとってくらしていますが、もとは村一番の長者(ちょうじゃ)で、だれからも尊敬(そんけい)されていました。
ところが長者の家に代だい伝えられていた、神さまの宝箱を海の魔神(まじん)にぬすまれてからというもの、男はすっかり落ちぶれてしまい、今ではそまつな小屋に、一匹のネコとイヌがいるだけなのです。
猟(りょう)に出かけるといっても、まったく獲物(えもの)のない日があり、そんな時はネコやイヌにさえエサをあげることができません。
そしてここ何日も獲物が見つからず、ウサギ一匹手にすることができないので、男は山へ行くのをあきらめて、朝から晩まで寝てばかりいました。
ネコもイヌもこまってしまい、男のまくら元へいって相談しました。
「なあ、このままでは、あなたもわしらもうえ死にしてしまうよ。何とか食べ物を手に入れる方法はないのですか?」
すると男は、
「いや、もうわしはだめだ。すまないがこんな家は出て、お前たちだけで生きてくれ」
と、言ったのです。
しかし、今までかわいがってもらった恩(おん)をわすれて、男を見捨てることはできません。
ネコが男に、はげますように言いました。
「そんな気の弱いことでどうするの。さあ、一緒に山へ行きましょう」
「・・・いいや、神さまの宝箱がなくてはどうにもならない。いくらがんばっても、むだな事だ」
男は宝箱を海の魔神に盗まれてから、ひどい暮らしになったことを正直にうちあけました。
するとネコが、
「なんだ、そうだったの。では、あたいらが宝箱をとりもどしてあげるよ」
そしてイヌも、
「そうさ。わしらがもどってくるまで、どんなことがあっても待っていておくれよ」
と、言ったのです。
二匹はすぐに家を出て、海の魔神の住む島へと向かいました。
島までは遠くて、二匹は海の中をかわるがわる相手を背中にのせて泳ぎ、ようやく島へ着いた時には、寒さと空腹で一歩も動けない状態でした。
それでも魚を食べて、ようやく元気になった二匹が立ちあがろうとした時、おびただしい数のネズミが山の方から海辺へと押しよせてきたのです。
ネコは、そのネズミたちにさけびました。
「魔神のいるほら穴へつれていきなさい! さもなくば、このツメで一匹残らずひっとらえて、やつざきにしてやるよ!」
イヌも負けじと、大声でさけびました。
「いうことを聞かないと、このキバで一匹残らず、かみくだいてやるぞ!」
その声にネズミたちは驚き、急いで向きをかえると、二匹を案内して山へと登っていったのです。
さて、山の中腹に大きな岩屋(いわや→岩のどうくつ)があり、入口には石の戸が閉まっていました。
ここが魔神のいるほら穴のようですが、どうやら魔神は留守のようです。
「よし、今のうちよ。お前たち、早くこの石の戸に穴を開けなさい!」
ネコが手をふりあげて命令すると、ネズミたちは石の戸をかじり、石の戸にポッカリと穴を開けました。
「それっ!」
二匹が岩屋にとびこむと、男の言ったとおりの宝箱がありました。
ネコがその箱をかかえて、イヌの背中にのせました。
二匹が岩屋から出てきた時、ネズミたちの姿がありません。
「もしかすると、魔神のところへ知らせに行ったのかもしれない。はやくもどろう」
二匹は、海辺に急ぎました。
ネコがふり返ると、ネズミを引きつれた魔神が、ものすごい勢いで山をくだってくるのが見えます。
二匹はあわてて海へ飛び込み、箱を押さえながら必死に泳ぎました。
ようやく村の海辺へたどりつくと、今度はネコが背中に箱をのせて、男の待つ家へともどっていきました。
二匹が宝箱を取り返してきたのを知った男は、ビックリです。
「おおっ、まさか本当にとり返えしてくるなんて。ありがとう。もう二度と、盗まれるようなことはしないぞ」
男が神さまの宝箱を開けると、中から金と銀の玉が出てきました。
不思議なことに、その玉を米びつに入れると、空っぽだった米びつがたちまち米であふれて、空の袋に入れると、袋は砂金でいっぱいになりました。
宝箱のおかげで男はまた長者となり、りっぱな屋敷をかまえました。
男が長者になったのを知って、以前に長者の屋敷で働いていた者たちも、次々ともどってきました。
長者はネコとイヌのためにりっぱな部屋をつくり、いつまでも大切にかわいがりました。
そして魔神がふたたび宝箱を盗まないように、ネコとイヌは死ぬまで、神さまの宝箱を守ったという事です。
おしまい