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6月16日の日本民話
金を拾ったら
山梨県の民話
むかしむかし、あるところに、とても貧乏な男が二人いました。
いくら働いても人に借りたお金も返せないで、もうどうにもくらしていけなくなりました。
それである暗い晩に、二人はそろって夜逃げをしたのです。
夜逃げをしてどこかへ行ってしまえば、借金を返さなくても大目にみてもらえるような時代でした。
二人はまっ暗な夜道をどんどん逃げて、夜が明けるころには、だいぶ遠くまで来ました。
「このあたりまで来ればもうだいじょうぶ、追いかけられてつかまることもないだろう」
と、二人は、いくらか気持ちが楽になってきました。
それでいろいろと、お金に苦労した話などをしながら歩いて行きました。
「おれたちはお金で苦労したが、金は天下の回りものと言うからな。ここらで、そろそろ回ってきてもいいもんだか。・・・おい、もしおれがここでお金をひろったら、どうすると思う?」
一人が聞くと、もう一人が言いました。
「きまっているじゃないか。おれにも半分くれるだろ」
「とんでもない! ひろったらおれのものだ。お前なんぞにやるもんか!」
「なんだと。友だちだというのに、お金を一人じめしようというのか。お前がそんな欲ばりとは知らなかったぞ。おまえはまるで、イヌやネコと同じだ!」
すると相手は、かんかんにおこり出しました。
「イヌやネコとはなんだ! もう一度言ってみろ!」
「ああ、何度でも言ってやる。人間の心を忘れたやつは、イヌやネコと同じだ」
「もう、がまんできねえ!」
「おう、かかってこい!」
二人は道のまん中で、とっくみあいのけんかをはじめました。
そのとき、向こうから一人の旅人がやってきました。
「やめろやめろ、やめないか!」
旅人が、なんとか二人をひきはなすと、二人とも着物が破けてボロボロです。
「いったい、どうしたというんだ?」
すると、一人の男の人が言いました。
「友だちというのに、こいつはお金をひろっても、おれに少しもよこさないんだ!」
「なにをいいやがる。いくら友だちでも、おれのひろったものはおれのもんだ。お前になんかやるものか!」
「だからお前みたいな奴は、イヌやネコと同じだというんだ」
「おれがイヌやネコなら、お前はイヌやネコにたかるノミだ」
「なんだと!」
「やるか!」
二人はまた、つかみあいをはじめようとしました。
「待て待て! あわてるんじゃない。わしがけんかをしないようにしてやるから、まず、ひろった金をここへ出してみろ」
すると二人は、あわてて言いました。
「いや、まだお金なんかひろっていない」
「そうだ。もしひろったら、という話じゃ」
「はあ?」
それを聞いて、旅人は腹をかかえて大笑いしました。
「お前たちは、なんという欲ばりだ。ひろいもしないお金のことで、けんかをするなんて」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人の男の人は、なんの役にも立たないけんかをしたことがわかり、きまり悪そうに頭をかきました。
そして、おたがいに貧乏のために心までちっぽけになっていたことに気がつき、それからは仲よく二人で旅をして行ったという事です。
おしまい