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11月17日の日本民話
奥方に化けたキツネ
愛媛県の民話
むかしむかし、今の道後温泉(どうごおんせん)のそばに、湯月城(ゆづきじょう)というお城があって、そこに河野伊予守道直(こうのいよのかみみちなお)という殿さまがいました。
ある日の事、殿さまが狩(か)りに出て帰ってみると、奥方(おくがた→奥さん)が二人いるのです。
顔も同じなら声も同じで、姿やしぐさもそっくりです。
「わたしが本物よ」
「わたしが本物よ」
「にせ者はあっちよ」
「にせ者はあっちよ」
殿さんはどっちが本物か、ぜんぜん見分けがつきません。
それで、医者をよんで二人の奥方を診(み)せると
「これは離魂(りこん)ともうしまして、魂(たましい)が二つに分かれる不思議な病でございます」
と、わかるような、わからないような事を言うのです。
こまった殿さまは、二人の奥方を座敷(ざしき)にとじこめて、ようすを見ることにしました。
二人のお腹が空いたところをみはからって、ごちそうを出すと、一人の奥方が耳をビクビクと動かして、ガツガツと食べるのです。
「あれがにせものじゃ!」
殿さまのひと言で、家来(けらい)たちがその奥方をとらえると、庭のスギの木にくくりつけて松葉の煙でいぶしました。
するとコンコンとせきをして、古ギツネが正体をあらわしたのです。
「おのれ、キツネのぶんざいで、よくもこのわしをだましおったな。こともあろうに奥の姿に化けるとはかんべんならぬ。火あぶりにしてくれる」
殿さまの命令に、家来たちが火あぶりの用意をしていると、何百匹ものキツネがどこからともなく現れて、頭を地面にこすりつけてたのみました。
「どうか許してください。このキツネは四国にすむキツネの中で、一番とうといキツネです。もし殺したらご領内(りょうない)にきっと悪いたたりがあります」
あまり口ぐちにたのむので、殿さまはキツネを許(ゆる)してやりました。
奥方に化けたとうといキツネは、殿さまに深々と頭を下げると、
「申し訳ございません。もうこれからは四国には住みません」
と、わび証文(しょうもん)を残して、みんなを連れて立ち去って行ったそうです。
おしまい