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3月12日の世界の昔話
  
  
  
  ワタの花と妖精
  アメリカの昔話 → アメリカの国情報
 むかしむかし、アメリカの沼地(ぬまち)に、ひとりの妖精(ようせい)がいました。
   この妖精は、糸をつむぐ名人でした。
   妖精の糸車は、朝から晩までクルクルとまわっています。
   妖精のつむいだ糸は、小さなクモの糸よりもほそくてしなやかで、とってもつやがありました。
   この糸をつかうと、それはそれは、美しい布が出来るのです。
   ですから、妖精の女王が舞踏会(ぶとうかい)をひらくときには、みんながこのすばらしい糸を注文するのでした。
   妖精のつかっている針は、おじさんのクマンバチの針でした。
   クマンバチは、いつももんくばかりいっていたので、みんなからきらわれていました。
   けれども、おじさんは死ぬときに妖精をよんで、
  「わたしが死んだら針をぬきとって、おまえがつかっておくれ。そして、なにか役にたつことをしておくれ」
  と、いったのです。
   妖精の住む沼地には、クマンバチよりも、もっとおそろしい動物がいました。
   それは、大グモです。
   その大きいことといったら、小鳥くらいもあります。
   大グモのからだは、赤と黄のだんだらもようにそまっていました。
   この大グモも、糸をつむいでいました。
   大グモの糸は銀色に光って、なかなかにきれいでした。
   けれども、妖精のほそくてしなやかな糸とくらベると、まるであらなわように見えました。
   大グモは、自分より美しい糸をつくる妖精が、にくらしくてなりません。
   ある日、妖精は糸をつむぎながら、ふと上を見あげました。
   大グモが頭の上におりてきて、いまにも自分を食べようとしています。
   妖精は、糸車と針をかかえてにげだしました。
   大グモはながい足をのばして、妖精を追いかけてきます。
   妖精は、穴から頭をだしているネズミを見つけました。
  「ネズミさん、ネズミさん。入れてちょうだい! 大グモに追いかけられているんです!」
   ネズミは、大グモと聞いてふるえあがりました。
   あわてて頭をひっこめたかと思うと、パタンと戸をしめてしまいました。
   妖精は、走りつづけました。
   まもなく、カエルを見つけました。
  「カエルさん、カエルさん。たすけてちょうだい! 大グモに追いかけられてるんです!」
  と、妖精はさけびました。
   けれどもカエルは、知らん顔をしていました。
   かわいそうに妖精は、もう息がきれて、死んでしまいそうでした。
   そのときホタルが、お尻のちょうちんをつけてやってきました。
  「ホタルさん、おねがいです。たすけてちょうだい! 大グモに追いかけられているんです!」
   すると、ホタルは、
  「わたしのちょうちんについていらっしゃい。すぐにいいところへつれていってあげますよ」
  と、いいました。
   ホタルのあとについて、妖精は美しい、モモ色の花のさいている野原ヘとやってきました。
  「さあ早く、あのきれいな花の中ヘとびこみなさい!」
  と、ホタルはいいました。
   妖精はヘトヘトにくたびれていましたが、それでも、ありったけの力をふりしぼって、花をめがけてとびあがりました。
   こうして妖精は、糸車と針をしっかりにぎったまま、花の中にかくれることができました。
   ところがすぐに、大グモが追いつきました。
   大グモは、モモ色の花のいちばん外がわの花びらにしがみつきました。
   妖精はクマンバチの針をにぎって、大グモの足をチクンとさしました。
   ビックリした大グモは、花びらといっしょに地面に落ちました。
   モモ色の花は、中に妖精を入れたまま、ピッタリと花びらをとじました。
   おきあがった大グモは、これを見て、カンカンにおこりました。
   そしてモモ色の花のまわりに糸をはりめぐらして、妖精がでてくるのをまつことにしました。
   つぎの日も、大グモはその糸の上で、妖精がでてくるのをまちました。
   ところが、一日じゅうまっても、妖精はでてきませんでした。
   つぎの日も、またつぎの日も、大グモはまちました。
   そのうちに、花びらが一枚一枚落ちはじめました。
   大グモは、
  「いよいよ、妖精が食べられるぞ」
  と、思って、舌なめずりをしながら、花に一歩近づきました。
   とうとう、最後の花びらが落ちました。
   それでも、妖精はでてきません。
   大グモはだまされたと知って、カンカンにおこりました。
   あんまりくやしかったので、つい、自分のからだをかじってしまいました。
   そしてそれが原因で、死んでしまいました。
   花の中にとびこんだ妖精は、花のおくにある、タネの袋の中にかくれていたのです。
   そしてやっぱり、糸車をいそがしくまわしていました。
   三日たつと、妖精はタネの袋からとびだしました。
   タネの袋があいたとき、そこからほそくてしなやかな糸があふれでました。
   それは、妖精のつくった糸でした。
   その糸は、タネの袋からふさになってぶらさがりました。
   やがて人間がやってきて、妖精のきれいな糸を持って帰りました。
   妖精は、モモ色の花がとても気にいりました。
   それからはずっと、モモ色の花の中で糸車をまわしています。
   いまでも、ワタの花の中には妖精がいて、糸をつむいでいるのです。
おしまい