| 
      | 
     
        世界のわらい話 第36話 
         
          
         
よわむしのドロボウ 
スペインの昔話 → スペインの国情報 
       むかしむかし、ある町に、貧乏な仕立て屋が住んでいました。 
   この仕立て屋、わるい人ではありませんが、生まれつきのなまけ者で、いつも人からお金をかりていました。 
   あんまりおおぜいの人からお金をかりたので、とうとう、返すことができなくなってしまいました。 
  「そうだ、死んだまねでもしてみよう。みんなはほんとうに死んだと思って、かしたお金のことをゆるしてくれるかもしれないぞ」 
   仕立て屋はそう思いついて、おかみさんにかんおけを買ってこさせました。 
   そしてその中に入って、死んだふりをしました。 
   おかみさんが、かんおけの前で泣きまねをすると、仕立て屋が死んだといううわさがすぐに広がりました。 
  「仕立屋が死んだってさ」 
  「しまった。おれはあの男に金をかしてあったんだがなあ」 
  「おれもだよ。でも、死んでしまったものはしょうがない」 
   お金をかしてあった人たちは、返してもらえないのをざんねんがりましたが、死んでしまったのではしかたがないと、あきらめました。 
   ところが一人だけ、あきらめない男がいました。 
   けちんぼうで有名な、クツ屋でした。 
   クツ屋は貧乏でしたが、それでも仕立屋に、お昼のパン代をかしていたのです。 
   わずかな金額ですが、貧乏なクツ屋にとっては大金です。 
   クツ屋はなんとかして、そのお金を取り返そうと思いました。 
  「ようし、お寺にいって、仕立屋のからだから、パン代ぶんだけ服をはぎ取ってこよう」 
   その晩おそく、クツ屋はお寺へ出かけていきました。 
   仕立屋のはいったかんおけは、お堂の中にはこびこまれていました。 
   仕立屋は、かんおけの中がせまいので、きゅうくつでたまりません。 
   でも自分は死んだことになっているので、つらいのをがまんして、ジッと目をつぶっていました。 
   やがて、ま夜中になりました。 
   仕立屋は、もうどうしても、ジッとしていることができません。 
  「もう、みんなねているだろう。かんおけからちょっと出てひと休みしても、だいじょうぶだろう」 
   こう思って、かんおけから出ようとしました。 
   一方、クツ屋は仕立屋のからだから服をはぎ取ってやろうと、お堂のすみにかくれていました。 
   そのとき、ドカドカと音がして、おおぜいの男たちがお堂の中にはいってきました。 
  「おや、あの男たちも、仕立屋の服をはぎ取りにきたのかな」 
  と、クツ屋は思いましたが、そうではありません。 
   この男たちは、ドロボウだったのです。 
   あちこちでぬすんできたお金を、このお堂の中でわけようと思って、やってきたのでした。 
  「おい、金をわけたら、にぎやかに酒でものむとしないか」 
  「よかろう。こんやは金もたくさん手にはいったんだからな」 
   ドロボウたちは、かんおけのそばまでいって、お金のはいった袋をおろしました。 
   そして、うす暗いロウソクのあかりの下で、お金をわけはじめました。 
   みんな、おなじずつ取りましたが、まだあとにいくらかのこりました。 
  「その金は、どうする?」 
  「こんやのことを考えたのはおれだから、おれがもらおう」 
  「いや、こんやはおれがいちばんよくはたらいた。だから、おれがもらうのがあたりまえだ」 
  「まて、まて、二人とも。おれが一番年上だから、おれがもらおう」 
   みんなは、かってなことばかりいっています。 
   すると、なかの一人がいいだしました。 
  「じゃ、いちばん勇気のある者がもらうことにしないか?」 
  「と、いうと?」 
  「このかんおけの中の死人に、ナイフをつきさした者がもらうことにしよう」 
   みんなは、こわごわながらもさんせいしました。 
   ドロボウたちは、ナイフを取り出しました。 
  「おまえからやれよ」 
  「いや、おまえがさきにやれ」 
   これを聞いた棺おけの中の仕立て屋は、ブルブルとふるえだしました。 
   そして、 
  「い、い、いのちだけは、どうかおたすけください!」 
  と、さけびながら、棺おけの中からとびだしたのです。 
   それを見たクツ屋が、大あわてでどなりました。 
  「こら!」 
   ドロボウたちは、ビックリ。 
  「おばけだー!」 
  「ゆうれいだー!」 
  「神さま、おたすけくださーい!」 
  と、さけびながら、にげていきました。 
   さて、仕立屋とクツ屋は、目から火花を出してにらみ合っています。 
  「やい、きさまは生きてたのか!」 
  「おまえは、こんな夜中になにしにきたんだ!」 
   二人は、いまにもつかみかかろうとしましたが、そこらじゅうにちらばっているたくさんのお金を見ると、すぐにけんかをやめました。 
   二人はお金をあつめて、半分ずつにわけました。 
  「これで、なかなおりしようや」 
  と、仕立屋がいいましたが、 
  「なかなおりするまえに、おまえにかしてあるパン代を返してくれ」 
  「なんだと。おれのおかげで、おまえはこんなにたくさんの金を手にいれたんじゃないか。パン代ぽっち、いいだろう」 
  「だめだ、だめだ。パン代はかえしてくれ」 
   クツ屋は、どうしてもしょうちしません。 
   さて、逃げ出したドロボウたちは、お堂へおいてきたお金がおしくてなりません。 
  「おばけにおどかされたなんて、なさけないとは思わないか」 
  「まったくだ。おばけをこわがってちゃ、ドロボウはできないな」 
   みんなは元気をだして、お堂にもどっていきました。 
   お堂のそばまでいくと、中からどなりたてる声がきこえてきました。 
  「パン代返してくれ。おれのパン代を返せ。やい、さっさとパン代返せ!」 
   それをきいたドロボウは、ふるえあがりました。 
  「あんなにたくさんのお金があるのに、どうして、パン代のことばかり、いっているのだ?」 
  「やっぱり、おばけなんだよ」 
   ドロボウどもは、まっさおになってにげていきました。 
      おしまい 
         
         
        
       
     | 
      | 
     |