5月12日の小話
つもりどろぼう
あるながや(→詳細)に、貧乏なさむらいがいました。
食べるのがやっとなくらいですから、うちの中には、どうぐらしいものなど、何一つありません。
大事なものといえば、先のさびついた、そまつなヤリが一本あるだけです。
さむらいは、まいにち、ひまをもてあましていました。
あくびと、貧乏ゆすりのくり返しです。
「そうだ。たいくつしのぎに、いいことを思いついたぞ」
さむらいは、かみをひろげると、なれない絵ふでをとって、たんすや戸だなや、火ばちをかきました。
火ばちには、やかんもかきました。
そして、そのかみをかべにはりつけました。
「よいよい。たとえ絵とわかっていても、ないよりはまし。ずいぶん、うちらしくなったわい」
さむらいは絵をながめて、よろこんでいました。
ところが、あるばんのこと。
さむらいがねていると、こそどろがしのびこんできました。
こそどろは、ひどい、きんがんでした。
おまけに、部屋はまっ暗です。
「おっ、これはりっぱなたんすがあるぞ」
こそどろは、たんすに手をかけました。
「・・・うん? いやにひらべったいたんすだなあ。ややっ、なんだこれは。紙にかいた絵だ。どろぼうをだますなんて、とんでもないやつだ」
よくみると、戸だなも火ばちも、絵。
これでは、何も取れません。
「せっかく入ったのに、何も取らずに帰ったのでは、どろぼうの名おれ。せめて、取ったつもりになろう。・・・よし、ひきだしをあけて、着物をぬすんだつもり。おびも、お金もぬすんだつもり。ぬすんだものを、ふろしきに包んだつもり。そして、どっこいしょっと、かついだつもり」
こそどろが、おかしなことをはじめたけはいに、ふと目をさましたさむらいは、はじめのうちこそ、クスクスと、わらっていましたが、そのうちに、だんだん、はらがたってきました。
「たとえ絵にかいた品ものであれ、ぬすまれるのを、だまってみてはおれん」
さむらいは、ヤリを取り出すと、
「おのれ、こそどろめ! かくごしろ!」
と、つき出しました。
すると、こそどろもこころえたもの。
「ブスリと、ヤリでさされたつもり」
わきばらをおさえて、すたこら、逃げ出しました。
おしまい
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