2010年 5月12日の新作昔話
悪魔のしっぽ
フランスの昔話
むかしむかし、あるところに、とてもなまけ者の男がいました。
男には、おかみさんと一人息子がいますが、ひどい貧乏なので、その日に食べるパンも買えません。
ところがあるとき、男は急に金持ちになったのです。
「お父さん。どうして、お金持ちになったの?」
「そ、それは・・・・・・」
息子が聞いても男は答えず、心配そうに息子の顔を見つめるだけです。
そのうちに男は死んでしまい、続いてお母さんも死んでしまいました。
息子は、一人ぼっちになってしまったのです。
(ああ、これから、どうやってくらせばいいのだろう?)
息子は泣きながら、お父さんの残してくれたたんすの引き出しを開けました。
すると、どうでしょう。
引き出しの中には、金貨がいっぱい入っていたのです。
「わあー、すごい。・・・おや、これはなんだろう?」
金貨の中に、一枚の紙切れが入っていました。
息子は、その紙切れを読んだとたん真っ青になりました。
なんとそれは、悪魔とお父さんの契約書だったのです。
《この金貨と引きかえに、お前の息子が二十一才になったら、息子の命をもらう》
息子は、あと一週間で二十一才になります。
(この約束の手紙は、悪魔のところにもあるにちがいない。早く取り戻さないと、ぼくは悪魔に殺されてしまう)
そこで息子は、よく切れる包丁をふところに隠して、悪魔の住んでいる城へ行きました。
悪魔の城では、宴会の真っ最中です。
ヘビやコウモリたちが、お酒を飲んだり、気味の悪い声で歌を歌っています。
息子がブルブル震えながらも、ドアの後ろに隠れていると、ようやく悪魔が現れました。
悪魔が広間に入ったとき、息子は後ろから力いっぱいドアを閉めました。
「いたい!」
うまい具合に、ドアに悪魔のしっぽがはさまりました。
「今だ!」
息子は素早く包丁を取り出して、そのしっぽをぷつりと切りました。
しっぽを切られた悪魔は、振り返って息子に言いました。
「しっぽを返してくれ」
すると息子は、負けじと言い返しました。
「しっぽがほしけりゃ、約束の手紙を返せ」
「とんでもない。あの手紙は、お前のおやじから金貨と引きかえに手に入れたものだ」
「いやなら、しっぽは返さないぞ!」
悪魔にとってしっぽは力の源なので、返してもらわないと悪魔の力を使う事が出来ません。
「・・・わかった。返してやるよ」
悪魔は仕方なく、ふところから約束の手紙を取り出して、息子に返してやりました。
そして悪魔は息子から受け取ったしっぽをお尻にくっつけると、あわてて逃げていきました。
こうして悪魔から手紙を取り戻した息子は、悪魔の金貨で一生幸せに暮らしました。
おしまい
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