10月1日の世界の昔話
クルミの中のマリア
フラーケの童話
むかしむかし、アフリカのナイル川のほとりに、金色と銀色のクルミがみのる木がありました。
金色のクルミの中には小さな女の赤ちゃんが、銀色のクルミの中には小さな男の赤ちゃんがはいっています。
ある日、コウノトリは金色のクルミをくわえて、海の上をとんでいました。
そのとき、だれかが弓矢(ゆみや)をはなったので、コウノトリはおどろいたひょうしに、くわえていたクルミを落としてしまいました。
でもクルミは、うんよく舟(ふね)の上に落ちました。
「おや? こんなところにクルミとはめずらしい。嫁さんのみやげにもってかえろう」
舟に乗っていた漁師(りょうし)は、そのクルミを家に持って帰ることにしました。
漁師の奥さんは喜んで、クルミをクリスマスツリーにかざろうとしました。
でも、ふしぎなことに、クルミのからのわれ目から、
「オンギャー、オンギャー」
と、赤ちゃんのようななきごえが聞こえてきたのです。
奥さんは用心(ようじん)しながら、クルミのからをこわしてみました。
するとクルミの中では、小さな花のような女の赤ちゃんがないていたのです。
「まあ、なんてかわいらしい赤ちゃん。名前はマリアにしましょう」
漁師の奥さんは、赤ちゃんを手のひらにのせると、やさしく言いました。
マリアはミルクをたくさん飲んで、小さなお人形くらいの大きさにそだちました。
マリアは毎日、アパートの屋上(おくじょう)で飛びはねて遊び、仲良しのツバメとおしゃべりをして、つかれるとオレンジのうえ木の下で昼寝をして、夕方まですごしました。
さて、ある日のことです。
いつものように、マリアがオレンジの木の下で昼寝をしていると、こわいワシに見つかりました。
ワシは目を光らせると、マリアをくわえて飛びさってしまいました。
ワシはなきさけぶマリアを、大きな森の巣(す)につれていくと、子どものワシに言いました。
「あたしはまだ用があるから出かけるけど、みんなで仲良くおやつを食べるのですよ」
マリアはいそいで巣の中のコケや草をあつめて、子どものワシの口の中に、思いっきりおしこみました。
これで子どものワシに食べられる心配はなくなりましたが、でも、大ワシが帰ってくればおしまいです。
さてそのころ、マリアのお母さんは、マリアがいなくなったので、仲良しのツバメをよんでたずねました。
するとツバメは、
「ハツカネズミを五十匹持っていって、森のミミズクに聞くといいよ」
と、教えてくれました。
ハツカネズミを五十匹なんて集められないので、お母さんは銀紙(ぎんがみ)に五十このチョコレートをつつんで、それにしっぽをつけて森へいそぎました。
ミミズクは、チョコレートのハツカネズミを食べてニッコリ。
ごきげんになって、教えてくれました。
「マリアなら、大ワシの子どものおやつにされそうになっておる。この先に狩人(かりゅうど)がおって、タカをかっているはずじゃから、力をかしてもらうといいじゃろう」
「ありがとう、ミミズクさん」
お母さんはツバメといっしょに狩人の家に行き、理由(りゆう)を話して、助けてほしいとたのみました。
話をきいていたタカは、いそいで空を飛んで行きます。
狩人は、
「もう大丈夫。安心して、家で待っていなさい」
と、言うので、お母さんはひとまず帰ることにしました。
さて、タカはワシの巣へ行くと、すぐにマリアをくわえて助け出しました。
ところがそこヘワシが帰って来て、タカに飛びかかってきたのです。
タカは素早くにげて、ミミズクのもとヘマリアを連れて行きました。
ミミズクは、タカにハツカネズミのチョコレートを五個あげて、お礼を言いました。
「助かってよかったな。明日の朝、家に帰りなさい」
ミミズクはそう言いましたが、マリアはシクシクなきながら答えました。
「わたしはすぐに帰りたいの。ミミズクさんがだめといっても、わたしは帰るわ」
しかたなくミミズクは、森のネズミを集めました。
ミミズクは、森のネズミたちに王さまとよばれていましたから、ネズミたちはすぐに集まってきました。
「このお嬢(じょう)さんを家まで送っておくれ。二百匹もいれば充分だろう。たのんだぞ」
「チュウ!」
ネズミたちは元気よく返事をして、小さな板車(いたぐるま)にマリアをのせました。
カラカラカラ。
マリアをのせた板車が、森の道から村へと出ます。
とちゅうでドブネズミたちもついてきて、おそってきたネコたちとたたかってくれました。
それに、森の仲間(なかま)のコウモリもついてきて、ハツカネズミの行列(ぎょうれつ)をとめようとした町のおまわりさんの鼻をくすぐってくれました。
「ハックション!」
おまわりさんがくしやみをして、ハンカチで鼻をかんでいるあいだに、ネズミたちは大通りをかけぬけ、マリアのアパートにつきました。
「ああ、マリア!」
ドアをあけたお母さんは、心配(しんぱい)で泣きはらした目をもう一回まっ赤にして、マリアをだきあげました。
おしまい
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