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幽霊の子守り
ドイツの昔話 → ドイツの情報
これは、十八世紀のドイツであったお話です。
ある町の鍛冶屋のケックさんの家には、幽霊(ゆうれい)が出るといううわさがたちました。
その幽霊は夜中の十二時頃になると、片方の手に大きなカギの束(たば)を、もう一方の手にはロウソクをともした燭台(しょくだい)を持って、どこからともなく現れるのです。
白いドレスのすそを引きずって家の中をスーッと音もなく通り抜け、時々、月の光の様に白く輝いて部屋を照らすことから、人々はその幽霊を『白い女』と呼んでいました。
ケックさんの家のあたりは、むかし小さなお城があったところです。
その城では大きなホールが事故で崩れ落ちて、たくさんの人が生き埋めになりました。
その時に死んだ人の魂が、『白い女』の幽霊になったと言い伝えられています。
さて、ケックさんと奥さんのアグネスさんに十番目の子どもが生まれて、カテリーナと名づけられました。
ある晩の事、ケックさん夫婦は何か気配を感じて目を覚ましました。
目をこらすと、暗い部屋をかすかに白い光が横切って行きます。
「誰かいるわ」
「白い女だ。カテリーナのゆりかごのところだ」
「まあ、なんて事なの!」
お母さんは娘の所へ行こうとしたのですが、恐ろしさのあまり体がガタガタと震えて、一歩も動く事が出来ません。
「大丈夫だ、落ち着きなさい」
お父さんはカテリーナをビックリさせてはいけないと、少し離れたところから静かに見守っていました。
白い女は、優しくゆりかごをゆすっています。
カテリーナは気持ちよさそうに、スヤスヤと眠っていました。
「心配ないさ。この子は、十二月生まれだ」
「そうね。クリスマスシーズンに生まれた子は、幽霊に出会うって言うものね」
ケックさん夫婦は安心して、白い女に子守りを任せて眠りにつきました。
白い女は、それから毎晩の様に姿を現しました。
そして、ゆりかごをゆすったり、カテリーナを抱っこして歩き回ったりと、カテリーナをうまくあやしてくれたのです。
それは、二年ほど続きました。
おかげでカテリーナはスクスクと元気に育ち、暗闇を怖がらない子になりました。
カテリーナが大きくなると、家の人たちはよく幽霊の話をして聞かせます。
「白い女が、あなたのゆりかごをゆすってくれたのよ」
「まあ、会ってみたいわ」
カテリーナは夜になると、幽霊が現れないかと楽しみに待っていましたが、大きく成長したカテリーナの前に、白い女が姿を現す事はありませんでした。
おしまい
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