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橋の上の幸福

橋の上の幸福
ポーランドの昔話 → ポーランドの国情報

♪音声配信(html5)
音声 ☆横島小次郎☆

 むかしむかし、スウーピア川と言う川のほとりに、小さな家がありました。
 この家には、お父さんとお母さん、それに三人の子どもが住んでいました。
 お父さんは働き者でしたが、家は貧乏だったので三人の子どもたちはいつもお腹を空かせていました。
 ある年の春、家に食べ物がなくなった為、お父さんはスウーピア川に釣りに出かけました。
「どうか神さま、魚の一匹でも釣らせて下さい」
 お父さんは頑張りましたが、夜になっても魚は一匹も釣れませんでした。
「ああ、なさけない父親だ」
 お父さんは、トボトボと家に帰りました。

 家では、子どもたちがお母さんと眠っていました。
 テーブルの上には、ヤギのミルクがほんの少しお皿に残っています。
「今夜の晩ご飯は、ヤギのミルクだけだったのか。そのうちにヤギもやせてしまって、ミルクを出さなくなるだろう」
 お父さんは大きなため息をついて、ワラのベッドに潜り込みました。
 その夜、お父さんは不思議な夢を見ました。
『シチェチンの大橋の上で、幸福に出会うよ』
 夢の中で、誰かがお父さんに言うのです。
 朝になって目を覚ましたお父さんは、夢の言葉を繰り返しました。
「『シチェチンの大橋の上で、幸福に出会うよ』か。一体、どんな幸福だろう。・・・いや、ただの夢じゃないか。本気にするなんてバカバカしい」
 お父さんはそう思って、その日も釣りに出かけました。
 けれども今日も、魚は釣れませんでした。
 そして夜になると、また同じ夢を見たのです。
『シチェチンの大橋の上で、幸福に出会うよ』
 お父さんは、首をかしげました。
「二日も続けて同じ夢を見るなんて、もしかすると・・・。いや、腹が空き過ぎて、頭がどうかしたのかもしれない」
 次の日、お父さんはまた川へ釣りに行きました。
 けれど魚は釣れず、夜になるとまた同じ夢を見たのです。
『シチェチンの大橋の上で、幸福に出会うよ』
 朝になると、さすがに気になってお父さんはお母さんに夢の話をしました。
「三日も続けて見るって事は、これは神さまのお告げかもしれねえ。バカバカしいと思うかもしれないが、そんな気がするんだ」
 するとお母さんは、真面目な顔で言いました。
「きっと、神さまのお告げですよ。ちょうどシチェチンで市場が開くから、ついでに市場で働いておいでよ。神さまのお告げだもの。パンの一斤(きん→重量の単位で、1斤は約600グラム)くらいめぐんで下さるわよ」
「そうだな。そうしよう」
 こうしてお父さんは、さっそく出かけて行きました。

 お父さんは途中で友だちの馬車(ばしゃ)に乗せてもらい、三日後にシチェチンの大橋に到着しました。
「さて、まずは幸福を待ってみるか」
 お父さんは夢のお告げ通り、大橋の上に立ってじっと幸福を待ちました。
 でも、夕方になっても何も起こりません。
 今から市場へ行って仕事を探すには遅すぎるし、宿に泊まるお金もありません。
「仕方ない。今夜は橋の下で眠るか」
 お父さんが橋の下で身を震わせると、一人の老人が近づいて来ました。
「どうしたね。こんなところで震えて」
「はい、それは・・・」
 お父さんは、三日続けて見た夢の話をしました。
 すると老人は手を叩いて笑い、こう言ったのです。
「そうか、そうか。
 実はな、わしも同じ夢を三日続けて見たんじゃよ。
 何でもスウーピア川のほとりに貧しい五人家族の家があってな。
 その家の暖炉(だんろ)の下に大金が埋めてあるから、掘ってみろと言うんじゃ。
 しかし、誰がそんな夢の話を信じるかね」
 話を聞き終わると、お父さんは老人の手をしっかりと握りしめ、
「そうですね。私が馬鹿だった。すぐ帰ります」
と、別れを告げて、大橋から遠い家まで走って行きました。
(スウーピア川のほとりの五人家族の貧しい家と言ったら、おれの家しかないはず)
 お父さんは走って走って友だちの馬車に追いつき、三日後には家に帰りつきました。
「あら、あなた、おかえりなさい」
「お父さん、パンは?」
 出迎えるお母さんと子どもに返事もせず、お父さんはオノでいきなりレンガの暖炉を壊し始めました。
「あなた、何するの!」
 驚いたお母さんが止めようとしましたが、暖炉を壊したお父さんは次に暖炉の下を掘り始めたのです。
 お母さんも子どもたちも、お父さんがあまりにも真剣なので、何も言わずにそばでジッと見ていました。
 そしてしばらくすると、お父さんが大声で叫びました。
「あったぞ!」
 そして土の中から大ナベを重たそうに引き上げると、それをテーブルに運んでふたを取りました。
「まあ!」
 大ナベの中には、金貨がたくさん入っていたのです。
「あなた! 夢のお告げはこれだったのね!」
「そうさ! これが夢でお告げのあった幸福だったんだ」
 お父さんはその金貨でパンとソーセージを山ほど買い、子どもたちとお母さんにお腹一杯に食べさせました。

 実はこの金貨は、お父さんのひいじいさんが貯めた物でした。
 ひいじいさんはこの金貨で、レストランを開こうと考えていたのです。
 その事を思い出したお父さんは、残った金貨でシチェチンの大橋にレストランを開きました。

 そのレストランはとても人気を集めて、家族は幸せに暮らしたという事です。

おしまい

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