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バイオリンひきのおじいさん

バイオリンひきのおじいさん
オーストリアの昔話オーストリアの情報

♪音声配信(html5)
音声 おはなしや

 むかしむかし、あるところに、貧しいバイオリンひきのおじいさんがいました。
 おじいさんが若い頃は、この町の人気者でした。
 バイオリンをひきながら美しい声で歌を歌うと、たちまち人が集まって来て、たくさんのお金を投げてくれたものです。
 でも今では、おじいさんのバイオリンを聞いてくれる人は誰一人いません。
 おじいさんはペコペコのお腹をかかえながら、町はずれの小さな教会へ行きました。
 おじいさんは中へ入ると、マリアさまに言いました。
「マリアさま、わたしのバイオリンを聞いてくれる人は、もう誰もいません。せめてマリアさまだけでも、お聞き下さい」
 おじいさんは心を込めてバイオリンをひき、歌を歌いました。
 むかしと少しも変わらない美しい声が、教会の中に響きます。
 するとおじいさんの目の前に、ポトリと、マリアさまの金のくつが片一方が落ちてきました。
「ああ、ありがとうございます。お優しいマリアさま」
 おじいさんは涙を流して喜ぶと、そのくつを近くの店へ売りに行きました。
 ところが店の人は、ボロボロの服を着たおじいさんを見て、このくつは盗んだ物に違いないと思いました。
 そしておじいさんは、役人のところへ連れて行かれました。
「わたしは盗んでいません。これは、マリアさまから頂いた物です」
 おじいさんがいくら言っても、役人は聞き入れてくれません。
「このうそつきめ!」
「よりにもよって、教会の物を盗むなんてとんでもない!」
 役人はそう言って、おじいさんに死刑を言い渡しました。

 次の日、おじいさんは町はずれの広場へ引かれて行きました。
 そして町はずれの小さな教会の前に来た時、おじいさんが言いました。
「最後のお願いです。もう一度だけ、マリアさまの前でバイオリンをひかせてください」
「いいだろう」
 おじいさんはマリアさまの前に行くと、ゆっくりとバイオリンをひき始めました。
 バイオリンの美しい音色が、教会に流れます。
 それに合わせて、おじいさんは心を込めて歌を歌いました。
「ああ、何てきれいな声だろう」
 町の人たちは、うっとりと耳を傾けました。
 すると、その時です。
 マリアさまの足が動いたかと思うと、残っていたもう一方の金のくつが、ポトリと、おじいさんの前に落ちたのです。
「あっ!」
 みんなは、いっせいにマリアさまを見上げました。
 マリアさまは、いつもと変わらないやさしい顔で立っていました。
 やがて町の人たちは、おじいさんのバイオリンに合わせてマリアさまの歌を歌いました。
 こうして、おじいさんは死刑にならず、町の人々からとても親切にされたそうです。

おしまい

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