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福娘童話集 > お話し きかせてね > きょうの世界昔話
ヤギとライオン
トリニダード・トバゴの昔話 → トリニダード・トバゴの国情報
むかしむかし、あるヤギが夕立(ゆうだち)にあいました。
トリニダードの夕立は、ものすごいいきおいでふるのです。
ライオンが家のまどから、ずぶぬれのヤギを見ました。
ライオンはヤギに、
「家にはいって、雨やどりをしないか?」
と、声をかけました。
ヤギはありがたいことだと思って、ライオンの家ヘはいりました。
するとライオンは、大声でいいました。
「ヤギくん。すわりたまえ。雨やどりのあいだ、ヴァイオリンをひいてあげよう」
ヤギはますます、ありがたいことだと思って腰をかけました。
ライオンはヴァイオリンをとりだすと、ひきながらうたいだしました。
♪雨のふる日にゃ。
♪家にいて、家にいて。
♪雨のふる日にゃ、家にいて。
♪おいしい肉のおいでをまつさ。
ヤギは、そのおいしい肉が自分のことだとわかったのでビックリ。
でも、おちついていいました。
「ライオンさん、いいヴァイオリンをお持ちですねえ。わたしにもちょっとひかせてくれませんか?」
「さあ、さあ、どうぞ」
ライオンは上きげんで、ヴァイオリンをかしてくれました。
ヤギはヴァイオリンをかりると、ひきながらうたいました。
♪きのう、ころした。一万びきのライオン。
♪一万びきのライオン、一万びきのライオン。
♪きのう、ころした。一万びきのライオン。
♪きょうはなんびき、ころそうか。
こんどはライオンが、ビックリしました。
(ヤギがライオンをころすなんて、本当だろうか?)
ライオンは首をかしげましたが、用心したほうがいいと考えて、大声でおかみさんをよびました。
「おい、おい、たきぎをとってこい!」
この雨のなかをたきぎをとりにいけといわれて、おかみさんはおどろきました。
それでもしかたなくでかけようとすると、ライオンは小さな声でいいました。
「帰ってくるなよ」
ヤギは聞こえないふりをしていましたが、こんどはもっと大きく早口でうたいだしました。
♪きのう、ころした。一万びきのライオン。
♪一万びきのライオン、一万びきのライオン。
♪きのう、ころした。一万びきのライオン。
♪きょうはなんびき、ころそうか。
ライオンは、こんどは息子をよびました。
「森へいって、おっかさんがなにをグズグズしているのか見てこい」
そして、小さな声でつけたしました。
「帰ってくるなよ」
ヤギは聞こえなかったふりをしていました。
そして、ものすごい大声で、ものすごい早さでうたいつづけました。
♪きのう、ころした。一万びきのライオン。
♪一万びきのライオン、一万びきのライオン。
♪きのう、ころした。一万びきのライオン。
♪きょうはなんびき、ころそうか。
あんまり早口でわめいたので、ヤギはヘトヘトにくたびれました。
それでもヤギは、うたうのをやめませんでした。
とうとうライオンは、こわくていてもたってもいられなくなりました。
「ヤギくん、しつれい。ちょっとうちのやつらをさがしにいってくるよ。どうぞゆっくり休んでいてくれたまえ」
と、いうと、ライオンは大いそぎで家からでていってしまいました。
ライオンが見えなくなったとたん、ヤギはヴァイオリンをほうりだして、いちもくさんににげだしました。
それからというもの、ヤギはけっして、ライオンの家の前の道を通らなかったということです。
おしまい
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