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9月18日の日本の昔話
  
  
  
  黒覆面と寺男
 むかしむかし、江戸の牛込(うしごめ)に、清浄寺(せいじょうじ)というお寺がありました。
   あるばん、寺の境内(けいだい)も、シーンとしずまったころに、あやしい影が一つ、二つ、三つと、寺の門を入ってきました。
   影は三つとも、黒い布で覆面をしています。
   ミシリ、ミシリ、ミシリ。
   本堂の廊下をしばらくわたって、住職(じゅうしょく)の部屋のまえまでくると、覆面どもは、スラリと刀をぬきました。
   部屋の中では、和尚(おしょう→詳細)がグッスリと寝こんでいます。
   覆面の三人はふすまをあけて中に入ると、天井からつりさげている、かや(ふとんごと天井からかぶせる、虫よけのアミ)のつり手を切りおとしました。
  「うわあーっ!」
   おどろくおしょうを、かやごとグルグルまきにして、
  「やい、おしょう。金のありかをいえ!」
  「いわぬと、ひと思いに」
  「あの世行きだぞ」
   和尚は、ブルブルふるえながら、
  「こんな寺に、金などあろうはずはないわい」
   盗賊たちと和尚とのかけあいは、ひと声ごとにはげしくなっていきました。
   その声を、台所の近くで寝ていた、寺の下男(げなん→下働き)が聞きつけました。
   下男は起きると、和尚の部屋へ近づいていきました。
   そして、部屋の中ヘ片手を入れると、手まねきで「おいで、おいで」をしました。
   すると、三人のうちの親分らしいのが、そばヘよってきます。
   下男は小さな声で、
  「おまえさんたち。和尚をせめたって、しゃベるもんでねえ。金のかくし場所は・・・」
  と、じぶんの鼻の頭を指さします。
   親分もひくい声で、
  「おまえが、知っとるというのか?」
   下男は、コクンとうなずきました。
   そこで三人の覆面は、和尚の部屋を出ると、くらい廊下を下男のあとからついていきました。
  「おい、どこまでつれていくんだ」
  「金銀は、すぐそこの観音堂(かんのんどう)の中の、さいせん箱の下にうめてあります」
   下男は三人を観音堂に案内すると、大きなカギをはずして中に入りました。
  「それ、このさいせん箱じゃ。ちと重いが、こいつをどかして・・・」
   下男は盗賦たちといっしょになって、さいせん箱に手をかけましたが、
  「どうもいかん。まっ暗では仕事ができん。どれ、ちょうちん(→詳細)をとってこよう」
   下男は観音堂を出ると、とびらにカギをかけました。
   そしてそのまま走りだすと、本堂の廊下にある鐘を、
   カン! カン! カン! カン!
   カン! カン! カン! カン!
  と、力いっぱいにならしました。
   観音堂にとじ込められた盗賊どもは、頭の良い下男のきてんにより、そのままかけつけたお役人につかまりました。
おしまい