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7月29日の日本民話
  
  
  
  十数えてごらん
  鹿児島県の民話 → 鹿児島県情報
 むかしむかし、ある年の大みそかの事です。
   お日さまが貧しい坊さんに姿をかえて、とぼとぼ村を歩いていました。
   大きな庄屋(しょうや)の家を見つけると、坊さんは家の戸をトントンとたたいて、
  「何か、食べる物をめぐんでくだされ」
  と、いいましたが、けちんぼうの庄屋は、
  「こじき坊主にやるもんは、なんもない。とっとと失せろ!」
  と、坊さんを追いかえしてしまいました。
   坊さんはしかたなく、となりの貧しいおじいさんとおばあさんの家へいきました。
   すると、
  「これはこれは、たったいま、アワガユができたところです。さあ、どうぞお食べ下さい。一緒に年忘れをしましょう」
  と、おじいさんは、坊さんを家の中にまねきいれてくれました。
   けれど、おなべの中はお湯ばかりで、アワなど少しも見えません。
   坊さんは、おばあさんにいいました。
  「そのおなべを洗ってな、葉っぱを三枚入れて、もう一度煮てごらんなさい」
   いわれたとおりにすると、おなべの中に、野菜の煮物がいっぱい出てきたのです。
   次に坊さんは、ふところから米つぶを三つぶとりだして、
  「おかまを洗って、このお米をたきなさい」
  と、いうので、そのとおりにすると、今度はおかまいっぱいに、ホカホカのご飯がたきあがったのです。
  「さあ、これでおかずもご飯もできた。三人で、たのしい年忘れの食事をしましょう」
   坊さんにいわれて、おじいさんとおばあさんは、まっ白なご飯とごちそうですばらしい年忘れをしました。
   おなかがいっぱいになると、坊さんが二人にいいました。
  「明日はお正月じゃ。もし望みがかなうなら、あなたがたは宝物がほしいかな? それとも、もう一度若くなりたいですかな?」
  「はい、わしらはよく話します。二人が出会った十七、八にかえってみたいと」
   おじいさんがそう答えると、お坊さんはたらいにお湯をわかすようにいって、黄色い粉をパラパラとお湯の中に落としました。
  「さあ、手をつないでお湯につかってみなされ。そして、十数えてみなされ」
   おじいさんとおばあさんは、言われたとおりにお湯につかりながら、
  「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十」
  と、十数えると、二人はたちまち若い娘と若者になっていたのです。
   二人が喜んでいると、もう夜が明けてきました。
   娘になったおばあさんが井戸水をくみにいくと、となりの庄屋夫婦がおどろいて、わけをたずねました。
   話をきいて庄屋は、すぐに坊さんを家へひっぱっていき、むりやりごちそうしました。
  「わしは夜が明けたら、空へ帰らねばならんのじゃ。早くふろをわかしなさい」
   すぐにおふろをわかすと、坊さんは赤い粉をパラパラとおふろに落としました。
  「さあ、もう時間がないから、奥さんも息子さんも、この家で働いておる者も全部一緒に入ってな。十数えてみなされ」
   そういわれて、みんなは大喜びです。
 そして一度におふろに入り、十数えてとびだすと、庄屋さんと奥さんはずるがしこいサル、息子はイヌ、働いている三人の男と女は、ネコとネズミとヤギになっていたという事です。
おしまい