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8月21日の日本民話
  
  
  
  てんとうさんと金のくさり
  佐賀県の民話 → 佐賀県情報
 むかしむかし、あるところに、お母さんと三人の子どもがいました。
   ある日の事、お母さんはいつものように庄屋(しょうや)さんの家へ、手伝いに出かけました。
   お母さんは一日中、庄屋さんの家ではたらいて、かえりにおにぎりを三つもらってきました。
  「おいしそう。子どもたちが喜ぶだろうなあ。さあ、はやくかえろう」
   お母さんが山道をいそいでいると、大変なことに、やまんばと出くわしてしまったのです。
  「い、いのちだけはおたすけを。そのかわり、このおにぎりをさしあげますから」
   そう言って、おにぎりを全部さし出すと、やまんばはペロリと食べてしまいました。
   そしてお母さんまでも、一口で食べらてしまったのです。
   さて、子どもたちが家で留守番(るすばん)をしていると、
  「トントントン」
  と、戸をたたく音が聞こえてきました。
  「お母さんだよ、開けておくれえ」
   でもその声は、おそろしくガラガラな声でした。
  「お母さんは、そんなへんな声じゃない。お前はやまんばだろう」
   子どもたちに正体を見やぶられたやまんばは、声のよくなる木の実を食べました。
  「お母さんだよ、あけておくれえ」
   声はお母さんに似ていますが、子どもたちは用心(ようじん)して言いました。
  「じゃあ、手を見せておくれよ」
   子どもたちに言われて、やまんばは戸のすき間から手を差し入れました。
   するとその手は、毛むくじゃらです。
  「お母さんの手は、そんな毛むくじゃらじゃない。お前はやまんばだろう」
   また正体を見やぶられたやまんばは、畑に行って、山イモを手にぬりつけました。
  「今度こそ、本当のお母さんだよ。あけておくれえ」
   やまんばは、戸のすきまから手をさし入れました。
   山イモをぬりつけたので、まっ白ですべすべの手です。
  「すべすべの手だ。わーい、本当のお母さんがかえって来たんだ」
   子どもたちは、戸を開けました。
   するとお母さんに化けたやまんばは、一番小さな弟をだきかかえると、さっと、寝る部屋に入ってしまいました。
   しばらくして上の二人の兄弟は、お腹が空いたので、お母さんに声をかけました。
  「お母さん、ごはんはまだ?」
   すると、こんな答えが返ってきました。
  「わしはもう、お腹がいっぱい。お前たちの弟は、うまかったよ」
   これを聞いて、二人の兄弟はビックリ。
  「あれは、お母さんじゃない。やまんばだったんだ。かわいそうに弟は、食べられてしまったんだ」
   兄弟はそっと家を抜け出すと、いちもくさんに逃げだしました。
   兄弟が逃げだした事に気がついたやまんばは、すごい速さで追いかけてきました。
  「まてまてえ、逃がしてなるものか!」
  「もうだめだ、このままでは追いつかれてしまう」
   ふと前を見ると、すぐ先に大きな木があります。
   兄弟は持っていたナタで木に切れ目をつけて、のぼっていきました。
   やまんばは、木の下からどなりました。
  「やいお前たち、どうやって、この木にのぼったんだ?」
   すると、上の兄が言いました。
  「簡単さ。手につばをつけてのぼるんだよ」
   やまんはは言われたとおりに、手につばをつけてのぼろうとしましたが、ツルツルとすべってのぼれません。
   それを見ていた二番目の兄弟が、
  「バカだな。ナタで切れ目をつけてのぼればいいのに」
  と、言ってしまったのです。
  「そうかい、それはいい事を聞いたよ」
   やまんばはナタで木に切れ目を入れながら、どんどんとのぼっていきました。
   兄弟はあわてて上へのぼっていきますが、やまんばにはかないません。
   もう少しで追いつかれそうになったとき、兄弟は空にむかっておいのりしました。
  「おてんとうさま、おてんとうさま。ぼくらを助けてください。助けてくれるなら、金のくさりを下ろしてください」
   すると空から、金のくさりがするすると下りて来たのです。
  「ありがとう、おてんとうさま」
   兄弟がこのくさりにつかまると、くさりはひとりでに、ガラガラと空にまき上げられていきました。
   それを見ていたやまんばも、兄弟のまねをして言いました。
  「おてんとうさま。こっちにもくさりを下ろしてくれえ」
   すると今度は、くさったなわが下りて来ました。
   やまんばがくさったなわにつかまると、くさったなわはプッツリと切れてしまい、やまんばは地面へと、まっさかさまにおちて行ったのです。
 こうして助かった兄弟は、夜空にかがやく兄弟星になったと言う事です。
おしまい