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9月7日の日本民話
  
  
  
  虫歯になったけちんぼう
  島根県の民話 → 島根県情報
 むかしむかし、あるところに、虫歯を抜く名人がいました。
   そのころは歯医者さんがいなかったので、虫歯がいたくなると名人のところへ行って、クギをぬくクギぬきでぬいてもらったのです。
   虫歯をクギぬきでぬくのはとても痛いのですが、でもこの名人にぬいてもらうと、ちっとも痛くないというので、大変な評判でした。
   さて、名人の家の近くに、自分の舌(した)を出すのももったいないというぐらいの、ひどいけちんぼうがいました。
   このけちんぼうも虫歯になりましたが、ちりょうのお金を出すのがいやなので、ずっとがまんしていました。
   でもとうとうがまんできずに、名人のところへやって来たのです。
  「虫歯をぬいてほしいのじゃが、虫歯を一本、いくらでぬいてくれる?」
  「はいはい。一本ぬくのは、二文(→一文は約30円ほど)です」
  「何? 一本ぬくのに、二文もとるのか?」
  「はいそうです。二本で四文、三本で六文」
  「そりゃ、高すぎる。一本一文にまけろ」
   この名人は、とてもいい人だったので、お金がなくてこまっている人の虫歯は、ただでぬいてやるのです。
   でもこの男は、本当は大変な大金持ちなのです。
  「まけることはできません。いやなら帰ってください」
  「うむ、そういわれてもな・・・」
   しばらく考えていましたが、けちんぼうが言いました。
  「それなら、この歯と一緒に、もう一本ぬいて二文にまけてくれ」
   二本で二文なら、一本で一文ということになります。
  (やれやれ、なんてあきれたけちんぼうだ)
   名人はバカらしくなり、すぐに虫歯をぬいてやりました。
  「さあ、虫歯はぬきましたよ。二文をおいて、もう帰ってください」
  「まてまて、二文で二本の歯をぬく約束だ。もう一本ぬいてくれ」
  「でも、もう虫歯はありませんよ」
  「いいから早くしろ、もう一本ぬいてもらわないと損(そん)をする」
  「・・・はいはい」
   名人はもう一本、虫歯でない丈夫な歯をぬいてやりました。
  「いててて!」
   丈夫な歯をぬいたので、とても痛かったのですが、それでもけちんぼうは口をおさえながら、
  (よしよし。これで一文もうけたぞ)
と、よろこんで帰って行ったという事です。
おしまい