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11月22日の日本民話
  
  
  
  だんだらぼっち
  三重県の民話 → 三重県情報
 むかしむかし、志摩半島(しまはんとう)おきの大王島(だいおうじま)には、だんだらぼっちという一つ目の大男がすんでいました。
   その大男はものすごい力持ちで、漁師たちのとった魚を船ごと持っていってしまうほどです。
   だから、だんだらぼっちが来ると村は大変なさわぎになります。
  「だんだらぼっちだー! はやく逃げろ!」
   だんだらぽっちはお腹がすくと村へやってきては、逃げ回る村人たちや家をふみつぶしながら食べ物を探して村中をあらしまわします。
   こまった村人たちは、村の代表の網元(あみもと)の家に集まって相談しました。
  「いったいどうしたら、だんだらぼっちが村に来なくなるだろう? このままでは、村はほろんでしまうぞ!」
   網元(あみもと)が言うと、集まった村人の一人が言いました。
  「そうじゃ、大きな落とし穴をつくったらどうじゃ?」
  「うーん、だんだらぼっちが落ちる穴となると、そうとう大きな穴をほらなくてはならんぞ。それに、どうやってその穴に落とすんだ?」
  「それはだな、・・・まだ考えとらん」
   また、みんなはこまってしまいました。
  「そうだ。ええ方法があるぞ! 酒をたらふく飲ますんじゃ」
  「おおっ、それでどうするんじゃ?」
  「わしらが穴の方へ逃げるんじゃ。すると、だんだらぼっちが追っかけてきて、穴の中にストーンと」
  「で、その後はどうするんじゃ?」
  「えーと、・・・そうじゃ、魚のアミをぐるぐるまきにかぶせりゃええ」
  と、いうわけで、村人たちはその夜のうちに大きなあなをほりました。
   そして、酒だるを五つも用意して、夜の明けるのを待ちました。
   夜が明けると、だんだらぼっちが酒のにおいにつられてやってきました。
  「おーい、だんだらぼっちがくるぞ」
   木の上の見はりが酒だるの番に言ったときには、だんだらぼっちは、もう酒だるの近くまで来ていました。
  「くんくん。いいにおいじゃ。おい、これは酒でねえか?」
   だいだらぼっちにたずねられて、網元がいいました。
  「へい、今日はめでてえ日なんで、だんだらぼっちさまに、これを飲んでもらおうと」
  「で、きょうはなんの日だ?」
  「へえ、それがその、じつは、あっしの生まれた日なんで」
  「ふーん」
   だんだらぼっちは、すぐに酒に手をのばしました。
  「まあとにかく、それはめでてえな。うーん、これはうめえ、うめえ酒だ」
   だんだらぼっちは、あっというまにたるを空っぽにすると、
  「うーい、もっと飲ませろーい」
   よっぱらっただいだらぼっちは、もっともっとと酒をさいそくします。
  「へいへい、ただいま。さあ、酒はこっちで。どうぞ、どうぞ」
   案内する村人たちに、だいだらぼっちがついていきました。
  「酒はどこじゃー!」
  「あっちです」
   網元が指さした方向ヘ、だんだらぼっちが足を出したとたん、
   ドデーン!
  「やったーっ!」
   だんだらぼっちが穴に落っこちたので、村人たちは大喜び。
   ところが、
  「ういーっ、酒はどこじゃあー」
  と、だいだらぼっちは穴から立ちあがったのです。
  「だめじゃ、穴が小さすぎた。逃げろ!」
   その日だんだらぼっちは、さんざんあばれまわって帰っていきました。
   村人たちはその夜、また網元のところへ集まって相談しました。
  「落とし穴くれえじゃ、とてもだめじゃ。ほかに何かええ方法はねえか?」
   そこへ網元の子どもが顔を出して、こんな事を言いました。
  「お父ちゃん、おらにいい考えがあるよ」
  「なんじゃ。子どもが口をはさむ事ではないが。まあ、とにかく言ってみろ」
   子どもは網元の耳に口をよせて、小声でひそひそといいました。
  「どう?」
  「うーん、子どもの考えとしては、まあまあじゃな」
  と、いうわけで、村人たちはさっそく準備をはじめました。
   それから何日かたって、また、だんだらぼっちがやってきました。
  「はらへったぞーっ、なにかうめえものないかー」
   そういいながらやってきただんだらぼっちは、大きなかごを見つけて村人にたずねました。
  「おい、こりゃあ、なんだ?」
  「はい、これは考えるだけでもおそろしい、千人力の男が使うタバコ入れでごぜえます。二、三日前からこの村にやってきました。その大男はあなたなど、そばへもよれないほどの強いやつでございます」
   それを聞いて、だんだらぼっちはビックリです。
  「そんなやつが、この村にいるのか?」
   だんだらぼっちがおそるおそる歩いていくと、こませぶくろという、太さが一かかえ半もある、大きな魚のえさぶくろがほしてありました。
  「これは、なんじゃ?」
  「へい、千人力の男がはく、ももひきでごぜえます。その男のでっけえことといったら、あなたさまなんぞ、まるで子どもみてえなもんでごぜえます」
  「このおれが、子どもみたえだと・・・」
   だんだらぼっちは、だんだんこわくなってきました。
   そして今度は、大きなアミがほしてあるのが目に入りました。
  「こ、これは、なんじゃあ?」
  「これは、千人力の男がきる着物です。ですが、これでも短くて、足が半分ほど出てしまうのです」
  「そ、そんなにでっけえのかっ!」
  「でけえのなんのって。なんにしろあなたさまが、子どもみてえなものですから。それから千人力の男は、こんなこと言っていました。『おめえたちは小さすぎてたよりない。もっと大きいやつがいたら、マリのようにほうりなげて遊んでやる』と」
   だんだらぼっちは、ブルブルとふるえ出しました。
  「お、おれ、もう帰るわ」
  と、言って、ふと足もとを見ました。
  「こ、これは、なんだ?」
   大きなむしろのようなものの上に、だんだらぼっちと村人たちは立っていたのです。
   網元がこたえました。
  「ごらんのとおり、わらじでごぜえます」
  「わわ、わ、ら、じ?」
  「千人力の男がはくわらじでごぜえます。もうすぐ、ここへはきかえにくるとおもいますよ」
  「ここへ、くるじゃと!」
   こんな大きなわらじをはく男につかまったらたいへんと、だんだらぼっちはあわてて逃げて行きました。
 そして、二度と村へはやってこなかったという事です。
おしまい