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2月6日の世界の昔話
雪だるま
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むかしむかし、たくさん雪がふったので、ある屋敷の一番小さい男の子が、雪だるまをつくりました。
次の日、雪だるまはひとりごとを言いました。
「へんだなあ? ぼくの体の中で、ミシミシと音がするぞ」
雪だるまは、瓦(かわら)のかけらでできた目で、西の空を落ちていくお日さまをにらんで、またひとりごとを言いました。
「ギラギラ光ったって、ぼくはまばたきしないよ」
そして、東の空に姿を見せ始めたお月さまを見つけると、
「なんだ、今度はあっちから出てきたのか。でも、もうギラギラするのはあきらめたみたいだな」
雪だるまの一人ごとを聞いていた番犬は、小屋からノソノソ出てくると、ボソボソと言いました。
「ぬすみ聞きしていたようで、もうしわけないけどね。あんたがさっき見たのはお日さまで、今、空に浮かんでいるのはお月さまっていうのさ。お日さまは朝出て、お月さまは夜に出て来るんだよ。ついでにもう一つ教えておくよ。もうすぐ天気が変わる。なぜかって? 俺の左足が痛むからわかるのさ。じゃ、おやすみ」
イヌの言ったことは、ほんとうでした。
夜が深くなるにつれて、きりがあたりをかくし、夜明けには風がふき始めました。
朝日が夜のやみをすっかり追い払うと、雪だるまは、
「わあ!」
と、思わずさけびました。
キラキラ、キラキラ、キラキラ。
雪がかがやき、庭は一面ダイヤモンドをしいたようです。
すぐそばでは、若い女の人と男の人の楽しそうな声がしました。
「すてきね。夏にはとても見られない景色(けしき)よ」
「ああ、そうだね。それに雪だるまも夏には会えないね」
二人は笑って、楽しそうに屋敷にはいって行きました。
「あの人たちは、なんなの?」
雪だるまは、小屋から様子を見ていたイヌにたずねました。
「なんなのって、大きい坊ちゃんと奥さんになる人さ。大きい坊ちゃんは、小イヌのころストーブのある女中(じょちゅう)さんの部屋でぼくをかわいがってくれたんだ。ストーブってのは、寒い日には世界一すばらしいものになるんだよ」
「ストーブって、きれい? ぼくににてる?」
「いや、正反対だね。女中さんの部屋を見てごらん」
雪だるまは、女中さんの部屋の赤々と燃えるストーブを見たとたん、言いました。
「あっ。ぼくの身体の中で、またミシミシ音がする。なんだかぼく、どうしてもストーブのそばに行きたい」
「なにいってるの。あんたがストーブによりそったら、とけちまうよ」
イヌが言うと、雪だるまは言い返しました。
「とけたってかまいません。ぼくは、ストーブのそばに行かなくてはならない気持ちなんです」
イヌはあきれて、
「そんなこと言ったって、だれがあんたを部屋に入れるもんかね」
そう言いながら小屋にもどって、目をとじました。
雪だるまは、ただもう、ジッとストーブを見つめて立っていました。
あたりが暗くなってくると、ストーブの火はますます赤くなって、とても美しく見えました。
お日さまの光ともお月さまの光とも違う、おだやかですべてをつつんでくれそうな光でした。
女中さんがときどき、ストーブの口を開けてマキをくべると、炎がサッと飛び出し、外の雪だるまの顔まで赤く赤くてらします。
「ああ、どうしてだろう?」
雪だるまは、つぶやきました。
「ぼくは、ストーブが大好きになったらしい。なぜだかわからないけど、そばに行きたくてたまらない」
その夜はとても寒く、女中さんの部屋のまどガラスいっぱいに、氷の花がさきました。
寒くて気持ちがいいはずなのに、雪だるまは悲しくなりました。
だって、氷の花がストーブの姿を、見えなくしてしまったのですから。
朝が来ました。
イヌが、小屋から出て言いました。
「天気が変わるぞ。左足がズキズキと痛むんだ」
たしかに天気が変わりました。
お日さまが、ギラギラとかがやき出したのです。
雪は、みるみるうちにとけ始めました。
雪だるまもだんだんとけていきました。
それは、雪だるまにはどうすることもできないことでした。
次の日の朝、イヌは雪だるまの立っていた所に、ストーブの火かき棒がころがっているのを見つけました。
「そうか。雪だるまの体は火かき棒がしんになっていたのか。それで、あんなにストーブのそばに行きたがっていたんだ」
イヌはストーブの火かき棒にむかって、やさしく言いました。
「俺はね、あんたのことをわすれないよ」
そのとき、屋敷の中から、春の歌を歌う子どもたちの明るい歌声が聞こえてきました。
おしまい