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9月25日の世界の昔話
翼をもらった月
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むかしむかし、子どもがほしいと、毎晩神さまにお祈りしているおじいさんとおばあさんがいました。
「子どもを一人さずけてください。子どもがいたら、どんなに心強いでしょう。どんなに家の中が明るくなるでしょう。どうか、願いをきいてください」
ある晩のこと、おじいさんとおばあさんはいつものようにおいのりをして、近くの川にカゴをしかけました。
「今夜カゴをしかけておいて、かかったものをわしらの子どもにしよう」
二人は、そう決めたのです。
おじいさんとおばあさんは、流れてゆく小川をながめながら、いつのまにかねむってしまいました。
そんな二人のようすを、とおくから見ているものがありました。
それは暗い夜空にかがやく、レモン色の大きな月でした。
翌朝、小川にしかけたカゴを見て、二人は思わずニッコリとほほえみました。
カゴには、一羽の子ガモがかかっていたのです。
「かわいい子じゃないか、おばあさん」
おじいさんとおばあさんは子ガモをだいて帰ると、古いマスの中にそっといれました。
おじいさんとおばあさんは、
「じゃ、わしらは森にキノコをとりに行ってくるから、しっかり留守番(るすばん)をたのむぞ」
と、ほんとうの子どもに言うように子ガモに言って、出かけて行きました。
二人が出て行ってしばらくすると、子ガモはマスの中でつばさを三回広げて、
ガア! ガア! ガア! ガア!
と、四回鳴きました。
そのとたんに、子ガモは羽をぬいで、美しい娘に姿をかえたのです。
娘はおばあさんのエプロンをつけると、台所にたって野菜のシチューを作り始めました。
それからそうじをして、白い布を見つけるとシャツを二枚ぬい、台所をていねいにみがきあげました。
夕暮れ近くになると娘はエプロンをはずし、三回手をたたきました。
すると、あっという間に娘は子ガモの姿になり、マスにもどったのです。
帰ってきたおじいさんとおばあさんは、できたての野菜シチューと、きれいにみがかれた台所を見てビックリ。
次の日も、おじいさんとおばあさんは、森へ出かけました。
そして帰ってくると、部屋の中はそうじがしてあり、花がかざってあります。
台所には、マメのスープと焼きたてのパンがあります。
その次の日には、クッションが新しくなっているし、ベッドカバーには星のししゅうがしてありました。
おじいさんとおばあさんは、ベッドの中で話しました。
「明日、出かけるふりをして屋根からそっと見てましょうよ。屋根には小まどがありますから、家の中のようすが見えますよ」
「ああ、そうしてみよう」
朝が来ると、おじいさんとおばあさんは森へ出かけるふりをして、決めたとおりに屋根にのぼって部屋の中を見ていました。
子ガモはそうとは知らずに、三回羽を広げると、
ガア! ガア! ガア! ガア!
と、四回鳴いて、羽をぬいで美しい娘になりました。
娘はおばあさんのエプロンをつけると、さっそく台所にたって料理を始めました。
それからそうじをして、おじいさんの机をみがき、おばあさんのやぶけたボウシをつくろいました。
屋根の上のおじいさんとおばあさんはビックリです。
「そうか、そういうわけだったのか。あの娘が夜もずっと、娘のままでいてくれたらいいのになあ」
「そうだ、おじいさん。あの娘のカモの羽を全部焼いてしまいましょうよ。そうしたら、あの娘はカモの姿にかえることができなくて、ずっと娘のままでいますよ」
「そうだな。よし、そうしよう」
おじいさんとおばあさんは屋根を下り、家の中へそっとはいりました。
そして娘が庭に出たすきに、二人は子ガモの羽を暖炉(だんろ)の火に投げ込みました。
そこへ、用事をすませた娘がはいって来ました。
「あっ、おじいさんにおばあさん!」
ビックリする娘に、おじいさんがやさしくいいました。
「カモや、・・・いや娘や、カモの羽は全て焼いてしまったよ。これでもう、お前は娘の姿のままだね」
おじいさんの言葉に、娘は焼けていく羽を見てひめいをあげました。
「なんてことをするのですか!」
それから悲しそうな顔をして、おじいさんとおばあさんに言いました。
「実は私は月なのです。お二人が毎晩、子どもがさずかりますようにとおいのりをしているのを見ていて、昼間だけでも子どもの役目をしようと、子ガモの姿をかりておりて来ました。けれど私は月です、夜には空へ帰らなければなりません。でもつばさがないことには、空にもどることはできません」
「おお、それは知らなかった。月が夜空をてらしてくれなければ、夜はやみにつつまれてしまう。どうしたらいいんだ」
オロオロしながらおじいさんとおばあさんが聞くと、娘は言いました。
「森へ行って、森じゅうの鳥の羽を一本ずつもらってください。その羽を持って、チレリイの谷に住む魔法使いのおばあさんのところへいき、もう一度カモの羽のつばさを作ってもらってください。私はカモのつばさができあがるまで、森のほら穴にかくれています」
おじいさんとおばあさんは、急いで森へ出かけて行きました。
そして出会った鳥に、羽を一本ずつわけてもらいました。
でも、おしゃれなセキレイ(→スズメ目セキレイ科の小鳥の事)だけは、
「どうしても私の羽がほしいのなら、真珠(しんじゅ)の首かざりをちょうだい」
と、言います。
真珠なんて持っていないおばあさんは、悲しくて涙を流しました。
すると、その涙は草の上に落ちたとたん、二粒の真珠になりました。
おじいさんとおばあさんは草をあんで、その真珠をつけて首かざりを作ってセキレイにわたしました。
せきれいは首のわた毛を一本、ぬいてくれました。
そうして二人はチレリイの谷へ急ぎ、魔法使いのおばあさんに、カモのつばさを作ってくれるようたのみました。
魔法使いのおばあさんは、二人が勝手に子ガモのつばさを焼いてしまったことを、ひどく怒りました。
でも、涙を流しながらたのむので、
「今度だけだよ」
と、いいながら、子ガモのつばさを作ってくれました。
おじいさんとおばあさんは、子ガモのつばさを大事にかかえて、娘のいるほら穴へむかいました。
夜空は月がなくてまっ暗だったので、おじいさんとおばあさんは途中で何度もころび、木に頭をぶつけました。
そしてようやくほら穴にたどりついたときには、おじいさんもおばあさんもクタクタです。
でも元気を出して、ほら穴にむかって言いました。
「つばさを作ってもらいましたよ」
すると娘は、ニッコリほほえみながら出てきました。
そしてすぐに両手を三回ふると、ガア! ガア! ガア! ガア!と、四回鳴いて、つばさを受け取りました。
「あっ!」
娘はたちまち、美しいカモの姿にかわりました。
それからつばさを広げると、暗い夜空へかがやきながらとんでいったのです。
「月が、月が出たよ」
まっ暗だった夜の空に、突然大きな月がうかびあがりました。
それは、今まで誰も見たこともないような、とても美しい月でした。
おしまい