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10月28日の世界の昔話

金髪姫

金髪姫
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 むかしむかし、あるところに、年をとった王さまがいました。
 あるとき、一人のおばあさんが、一匹のさかなを持ってご殿にやってきました。
「王さま、このさかなを焼いてめしあがってごらんなさい。陸を走るけもの、海をおよぐさかな、空をとぶ鳥、どんないきもののことばも、わかるようになりますよ」
 王さまはおばあさんにたくさんのほうびを持たせて帰すと、さっそく、家来のイルジックをよびました。
「このさかなを焼いてまいれ。だが、ひと口もたべてはいかんぞ。たべたら命はないものと思え」
 イルジックは、いつもとちがう王さまの命令をふしぎに思いました。
「それにしてもおかしなさかなだなあ。まるでヘビのようだ。ちょっと味をみるぐらいならいいだろう」
 さかなが焼けると、イルジックはほんのちょっぴりつまみぐいをしました。
 するととつぜん、どこからか、小さな小さな声が聞こえてきました。
「ぼくたちにも、おくれよ!」
 イルジックは、キョロキョロとあたりを見まわしました。
 けれども、二、三匹のハエが台所をとびまわっているだけで、だれもいません。
「おかしいなあ?」
 イルジャックが首をかしげていると、こんどは外で、
「どこへいくんだい? どこへいくんだい?」
と、ふとい声がしました。
「粉屋のところへ」
と、ほそい声がこたえました。
 イルジックがまどからのぞくと、オスのガチョウと、メスのガチョウが外にいました。
「そうか、そうだったのか。このさかなをたべると、動物のことばがわかるんだな」
 イルジックは、もうひと口つまみぐいをしてから、しらん顔で王さまのところへさかなの皿をはこびました。
 ごはんのあとで、王さまはイルジックをおともに、ウマに乗ってさんぽにいきました。
 みどりの野原を通りかかったとき、イルジックのウマが、たのしそうに笑いだしました。
「ああ、ゆかいだなあ。イルジックはかるいから、山だってとびこせそうだよ」
「うらやましいねえ」
と、王さまを乗せているウマが、ためいきをつきました。
「おれもとびはねてみたいよ。だが、このヨボヨボの王さまを乗せていちゃ、むりな話さ。首でも折られちゃたいへんだからね」
「かまわんじゃないか。じいさんが首をおったら、こっちのわかいのを乗せて走りゃいいさ」
と、イルジックのウマがいいました。
 思わず、イルジックはクスッと笑いました。
 王さまは、ジロリとイルジックをにらんでたずねました。
「なにを、笑ったのだ!」
「その、ちょっと、おかしいことを、思いだしまして」
 イルジックは、あわててごまかしましたが、王さまはきげんをわるくして、ひきかえしました。
 ご殿につくと、王さまはイルジックに、お酒をつぐようにいいつけました。
「このさかずきに、ちょうどいっぱい酒をつげ。少なすぎたり、あふれさせたりしたら首をはねるぞ」
 イルジックは、お酒をつぎはじめました。
 ちょうどそのとき、まどから二羽の小鳥がとびこんできました。
 一羽の小鳥は、くちばしに美しい金の髪の毛を三本くわえていました。
「かえせ、かえせ。ぼくのだよ!」
「いやだ。ぼくがひろったんだもの」
「だけど、あの美しいお姫さまが髪の毛をとかしていたとき、髪の毛がおちたのを見つけたのはぼくだよ。二本でいいから、かえしてくれ」
「一本だって、やるものか」
 二羽の小鳥がとびながらうばいあいをしているうちに、一本の髪の毛がゆかにおちてスズのような音をたてました。
 イルジックはつい、そっちのほうをふりむいて、お酒をあふれさせてしまいました。
「もう、おまえの命はないぞ!」
と、王さまはさけびました。
「だが、この金の髪をもつ姫を見つけて、わしのところにつれてくるなら、ゆるしてやろう」
 しかたがありません。
 イルジックはウマに乗って、あてもない旅にでかけました。
 イルジックが森のそばを通りかかると、牧童(ぼくどう→カウボーイ)たちが、しげみを焼いていました。
 しげみの下にはアリづかがあって、いまにもほのおに焼かれそうでした。
 たくさんのアリたちがタマゴをかかえて、オロオロと、にげまわっていました。
 イルジックはウマからとびおりると、しげみをきりはらって火を消し、アリたちをたすけてやりました。
 アリは喜んで、なんどもお礼をいいました。
「ありがとうございます、イルジックさん。なにかこまったときは、わたしたちを思いだしてください。きっとたすけにいきますよ」
 しばらくしてイルジックは、高くそびえたモミの木のそばを通りかかりました。
 モミの木のいただきには、カラスの巣(す)がかかっています。
 木の根もとで二羽のカラスの子が、悲しそうにないていました。
「お父さんもお母さんも、自分のエサをさがしにとんでいってしまったの。ぼくたちはまだとべないし、おなかがペコペコなの」
 イルジックはウマからとびおりると、ウマをころして、その肉をカラスの子にやりました。
 カラスの子は、大喜びでさけびました。
「ありがとう! イルジックさん。こまったときには、きっとたすけにいきますよ」
 ウマがなくなったので、イルジックは歩かなければなりません。
 いく日もいく日もかかって、森を通りぬけると、はてしない海がひろがっていました。
 海べを歩いていくと、二人の漁師がけんかをしていました。
 二人はアミにかかった金のさかなを、うばいあっていたのでした。
 イルジックは持っていたお金をぜんぶやって、さかなを買いとりました。
 それから、さかなを海へはなしてやりました。
 金のさかなは、うれしそうに水から頭をだして、
「ありがとう、イルジックさん。こまったときには、きっとたすけにいきます」
と、さけんで、波のあいだに消えていきました。
 イルジックは二人の漁師に、金の髪の毛をもつ姫を、あてもなくさがしていることをはなしました。
 すると運のいいことに、漁師たちはその姫のことを知っていました。
「ほら、むこうに島が見えるでしょう。あの島のスイショウのご殿にすむ王さまの姫がその方ですよ。姫はいつも夜あけに金の髪をとかします。そのときは空も海もキラキラと光りますよ。あなたはこんなにたくさんのお金をくださったから、お礼に島まで船でつれていってあげましょう。だがお気をつけなさい。王さまには十二人も姫がいるんですが、金髪姫はその中のたった一人ですからね」
 島まで漁師たちに送ってもらったイルジックは、スイショウのご殿の王さまにいいました。
「主人のつかいで、金髪姫に結婚を申しこみにまいりました」
「よろしい、ご主人に娘をさしあげよう。だがその前に、三日のあいだ、わしのいいつけをやりとげてもらわなくてはならない」
 つぎの朝、王さまはイルジックに、第一のしごとをいいつけました。
「金髪姫が野原へ遊びにいったとき、首かざりの糸がきれて、草の中に宝石がちらばってしまった。ひとつのこらずひろい集めて、首かざりをつくってきなさい」
 いってみると、そこはひろいひろい野原でした。
 イルジックは、あちこちさがしましたが、なにも見つかりません。
 時間は、どんどんたっていきます。
「ああ、ここにあのアリがいてくれたらなあ」
 イルジックは、ためいきをつきました。
 すると、
「いますよイルジックさん。なんのご用ですか?」
 いつのまにか、たくさんのアリがイルジックのまわりをはっているではありませんか。
「宝石をひろい集めなくてはならないのに、ひとつも見つからないんだ」
「なんでもありません。すぐ集めてあげましょう」
 アリたちは、サッとちらばっていったかと思うと、たちまち宝石をひとつのこらず集めてきました。
 イルジックはかんたんに、首かざりをつくることができました。
 それを見て、王さまはいいました。
「よくやった、イルジック。だが、あしたのしごとはもっとむずかしいぞ」
 つぎの朝、王さまは二番目のしごとをだしました。
「金髪姫は海で水あびをしているときに、金の指輪をおとしてしまった。その指輪をさがしてきなさい」
 イルジックは、海岸にでてみました。
 しかし、このひろびろとした深い海の、いったいどこに指輪はおちているのでしょう。
 ボンヤリ海岸を歩きまわっているうちに、時間はどんどんたっていきます。
「ああ、ここにあの金のさかながいてくれたらなあ」
 イルジックは、深いためいきをつきました。
 すると、波間がキラキラとかがやいたかと思うと、金のさかなが顔をだしました。
「いますよ、イルジックさん。なんのご用ですか?」
「海の中から、金の指輪をさがさなくてはならないんだ。だが、どうしていいかわからない」
「ああ、さっきカマスにあったら、ひれにその金の指輪をはめていましたよ。すぐにとってきましょう」
 金のさかなは、またたくまに金の指輪を持ってきてくれました。
「よくやったな。イルジック」
 王さまは、指輪をうけとっていいました。
「だが、あしたのしごとはもっとむずかしいぞ」
 つぎの朝、王さまはさいごのしごとをだしました。
「命の水と死の水を持ってきなさい。そうしたら、おまえの主人に金髪姫をやろう」
 いったいどこへいけば、そんな水が見つかるのでしょう。
 イルジックは、でたらめに歩きつづけました。
 そうしているうちに、深い森の中にはいりこみました。
「ああ、ここに、あのカラスの子たちがいてくれたらなあ」
 イルジックは、深いためいきをつきました。
「いますよ、イルジックさん。なんのご用ですか?」
 どこからともなく、すっかり大きくなった二羽のカラスの子がとんできました。
「命の水と死の水をとってこなければならないんだ。いったいどこへいけばいいんだろう?」
「なんでもありません。すぐに持ってきてあげますよ」
 たちまち二羽のカラスは、ふたつの筒を持ってきました。
 ひとつには命の水が、もうひとつには死の水がはいっていました。
 イルジックは大喜びで、王さまのご殿へいそぎました。
 そのとちゅう、森の道にクモの巣がかかっていました。
 巣のまんなかに大きなクモがいて、つかまえたハエの血をすっていました。
 イルジックは、死の水をクモにふりかけました。
 クモはパタッと地面におちて死にました。
 そこで、命の水をハエの死がいにふりかけました。
 するとハエは、みるみるうちに生きかえって、クモの巣をやぶってとびだしました。
「ありがとう、イルジックさん。お礼にあなたを、きっとしあわせにしてあげますよ」
 ハエは、ブンブンうなりながらとんでいきました。
 さて王さまは、イルジックがいいつけられたしごとをやりとげたのを見ると、金髪姫をイルジックの王さまのおきさきにすることをしょうちしました。
 王さまは、イルジックを大広間につれていきました。
 そこには大きなまるいテーブルがあって、十二人の美しい姫がすわっていました。
 みんな頭に、雪のように白いきれをかぶって、髪をかくしていました。
 どの姫の顔もそっくりで、髪の毛を見なくては、だれが金髪姫か見わけがつきません。
「ここにいるのは、みなわしの娘だ。この中から金髪姫を見わけたらつれていくがよい」
 いくら見ても、わかりません。
 イルジックは、考えこんでしまいました。
 すると耳もとで、だれかがブンブンいっています。
「さあ、テーブルのまわりをまわりなさい。わたしが教えてあげますから」
 イルジックは、テーブルのまわりをまわりはじめました。
 一ぴきのハエがそばをとびながら、小さな声で教えてくれます。
「ちがう。・・・ちがう。・・・ちがう。・・・この姫ですよ、金髪姫は」
「この方です。わたしが王さまのおきさきにいただきたいのは!」
 イルジックは、大声でさけびました。
「みごと、そのとおりじゃ」
 王さまは、おどろきの声をあげました。
 金髪姫はたちあがって、白いきれをとりました。
 中からは、すそまでとどく金の髪があらわれました。
 大広間は、まるで太陽がのぼったようにあかるくなりました。
 金髪姫は王さまや姫たちにわかれをつげ、イルジックといっしょに年よりの王さまのところへきました。
 金髪姫をひと目みて、王さまはとびあがって喜びました。
 ご殿では、さっそく結婚式のしたくにとりかかりました。
 ところが、王さまは、
「イルジック。おまえはウマをころしてカラスにたべさせたそうだな。首つりにでもしてやりたいくらいだが、首をきるだけでゆるしてやる」
と、いって、イルジックの首をきらせてしまいました。
 金髪姫は王さまにたのんで、イルジックの首とからだをもらいました。
 そして、首とからだをならべて死の水をふりかけました。
 すると、首とからだがピッタリくっついて、きずのあともなくなりました。
 金髪姫は、こんどは命の水をふりかけました。
 そのとたん、イルジックは元気よくおきあがりました。
 王さまはそれを見ておどろきました。
 イルジックは、ますますわかく美しくなったのです。
 年とった王さまも、わかがえりたくなりました。
「わしの首もきってくれ。わしにもふしぎな水をふりかけてくれ」
 いいつけどおり、王さまの首をきりました。
 まず、命の水をふりかけましたが、どうしても首とからだがつきません。
 そこで死の水をふりかけると、首とからだはつきましたが、もう命の水はのこっていませんでした。
 ですから王さまは、生きかえることができませんでした。
 けれども、国に王さまがいなくてはこまります。
 そこで動物のことばも聞きわけられる、かしこいイルジックが、新しい王さまにえらばれました。
 そして金髪姫と結婚して、しあわせにくらしたということです。

 このお話しは、チェコの民話の中でも、たいへん有名です。

おしまい

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