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10月30日の世界の昔話

サヤエンドウじいさん

サヤエンドウじいさん
ポーランドの昔話 → ポーランドの国情報

 むかしむかし、ある村に、イェジーじいさんというおじいさんが、まごたちといっしょにくらしていました。
 とてもまごをかわいがる、いいおじいさんでしたが、ただこまったことに、ほら(→うそ)をふくくせがあって、いつもでたらめばかりいっているのでした。
「わしは、こんなびんぼうぐらしをしてはいるが、いつでも大金もちになれるんだ。というのも、サヤエンドウじいさんという魔法使いがいてな、わしのいいつけならなんでも聞いてくれるからさ」
 もちろん、それはおじいさんのでまかせでした。
 でも、村の人たちになんどもこういっていばっているうちに、ほんとうにサヤエンドウじいさんがいるような気がしてきました。
 さて、ある日のこと、イェジーじいさんは畑の番をたのまれました。
「おい、みんなすごいだろう。ちょっと番をしてやるだけで、あげまんじゅうと、スイカと、上等のハムがもらえるんだぞ」
 イェジーじいさんは、さっそくいばりましたが、けれどもおじいさんが本当にもらったのは、小さなキャべツが三つきりでした。
「やれやれ、まごたちが腹をすかせてまってるのに、これじゃなんのたしにもならん。こまった、こまった」
 おじいさんは頭をかかえて、畑のあぜにすわりこみました。
 そのとき、おじいさんはハッと思いだしました。
「そうだ! サヤエンドウじいさんにたのめばいい」
 イェジーじいさんは、大声でさけびました。
♪サヤエンドウじいさん、
♪きておくれ、
♪しあわせを持って、きておくれ。
 もちろん、サヤエンドウじいさんなんて、イェージーじいさんのほらだったのですが、不思議なことにエンドウの花がゆらっとゆれて、小人のおじいさんがとびだしてきたのです。
 マメ色のうわぎとボウシをかぶっていて、手にはつえをもっています。
 イェジーじいさんが考えていた、サヤエンドウじいさんにそっくりでした。
「わしが、サヤエンドウじいさんだ。なんなりとのぞみをかなえてあげよう。しあわせにもしてあげよう。だが、もう二どとうそをついてはいけないよ」」
と、小人はいいました。
「わしが、うそなんかつくものかね」
と、イェジーじいさんはつぶやきました。
「さあ、それではしあわせをさがしにでかけよう。まごのことは心配しなくていい。近所の人がせわをしてくれるから」
 イェジーじいさんは、小人のサヤエンドウじいさんにつれられて旅にでかけました。
 小人は、小ムギで焼いたもちを持っていきました。
 二人は、野をこえ山をこえて旅をつづけました。
 そのうちに、焼いたもちはだんだんヘって、あと二つきりになりました。
「こんやはがまんして、朝までのこしておこう」
 サヤエンドウじいさんは、そういってねました。
 でも、イェジーじいさんは、おなかがすいてねむれません。
 とうとう、夜なかにそっとおきだして、焼いたもちを一つたべてしまいました。
 よく朝、サヤエンドウじいさんはイェジーじいさんに聞きました。
「おや? ゆうべ、たしかにもちは二つあった。・・・さては、おまえさんが一つたべてしまったんだね。正直にいってくれ」
「とんでもない! たベやしないよ。おまえは自分がたべておいて、うそをついているんだろう!」
「・・・やれやれ」
 小人は、ため息をつきました。
 でも、なにもいわずにのこったもちを二つにわって、イェジーじいさんにもわけてやりました。
 二人はまた、旅をつづけました。
 しばらくして、大きな村につきました。
 サヤエンドウじいさんはイェジーじいさんをのこして、食べ物をさがしにでかけました。
 イェジーじいさんは村の人たちと話をしていましたが、そのうちに、いつものようにでまかせをいいはじめました。
「オホン! わしは火の中にだってとびこむことができる。火事のときにはいつも火をくぐって、人や財産(ざいさん)をたすけだしてやるんだ。あつくもなんともない。火事だって消してやるのさ」
 村の人たちはすっかりかんしんして、お酒や肉だんごをごちそうしました。
 そのとき、だれかが大声でさけびました。
「火事だー! 火事だー!」
 さあ、あたりは大さわぎになりました。
 火事になった家の主人は、さっそくイェジーじいさんにすがりつきました。
「どうぞ、おたすけください。火事を消してください。だいじな財産を持ちだしてください」
 そんなことをいわれても、できません。
 イェジーじいさんは、ただオロオロして、まわりをうろつきまわるだけです。
 そのうちに、村の人たちはおこりだしました。
「どうしたんだ! さっきの話は、うそだったのか?!」
「うそなものかね、見ているがいい」
 こうなれば、しかたがありません。
 おじいさんは思いきって、火の中へとびこみました。
 でも、とびこみはしましたが、どうすることもできません。
 いまにも、焼け死にそうです。
 おじいさんは、夢中でさけびました。
「サヤエンドウじいさん、たすけてくれえ!」
 するとたちまち、サヤエンドウじいさんが大きなジョウロを持ってやってきました。
「イェジーじいさん、たすけてやろう。だがそのまえに、ほんとうのことをいいなさい。もちをたベなかったとか、火事を消せるとか、うそをついたろう」
 イェジーじいさんは、そんなことをうちあけるくらいなら、焼け死んだほうがましだと思いました。
「いいや、たベたりしない。おまえがたべたんだろう。火事を消せるなんて、いったおぼえもない」
「・・・やれやれ」
 サヤエンドウじいさんは大きなため息をつくと、ジョウロの水を火にかけました。
 火はたちまち消えて、イェジーじいさんはたすかりました。
 さて、二人はまた、森をこえ山をこえて旅をつづけ、やがてひろい川のそばにやってきました。
 川のむこうの丘の上に、美しい町が見えました。
 サヤエンドウじいさんは、その町をさしていいました。
「あの町でしあわせが見つかるだろう。だが、ほらをふいたりうそをつくと、とんでもないさいなんがふりかかってくるからな」
「だいじょうぶ。うそなんかつくものか。やくそくするよ」
と、イェジーじいさんはやくそくしました。
 ところが、サヤエンドウじいさんが昼ねをしているまに、川岸で遊んでいた子どもたちを集めて、もう、ほらをふきはじめました。
「わしは、もぐりの名人だ。一日じゅうだって、水の中にもぐって泳ぐことができるんだよ」
 こういいながら、川にかかった小さな橋の上で、泳ぐまねをして見せました。
 ところがそのとたんに、橋がボキンとおれてしまい、おじいさんは川へまっさかさまに落ちてしまいました。
 イェジーじいさんは、ほんとうは、すこしも泳ぐことができないのです。
 たちまち流されて、おぼれそうになりました。
 おじいさんは、死にものぐるいでさけびます。
「サヤエンドウじいさん、たすけてくれえ!」
 サヤエンドウじいさんは、目をさましてとんでくると、イェジーじいさんの髪の毛をつかんでいいました。
「たすけてやるが、ほんとうのことをいいなさい。もちをたベただろう。ほらも、ふいただろう」
 イェジーじいさんは、いまにも息がとまりそうでしたが、それでも大声でいいはりました。
「もちをたべたのは、おまえだ! ブクブク。わしは、ほらなんかふくものか! ブクブク」
「・・・やれやれ」
 サヤエンドウじいさんは、ため息をつきました。
 でも、だまってイェジーじいさんをたすけあげると、むこう岸の町へつれていきました。
 町の市場では、ちょうど、この国のおきさきのおふれが読みあげられるところでした。
『おきさきさまお気に入りの、はたおり娘のバーシャとスターシャが、頭もあがらないおもい病気。おきさきさまは、たいヘんなお悲しみ。二人の病気がなおらなければ、新しいきものをおめしになれない。そこでおきさきさまは、おふれをだされた。二人の病気をなおしたものには、金貨を山ほどくださると。だが、もしうまくいかないときは、首きり役人にひきわたす』
 サヤエンドウじいさんは、イェジーじいさんをご殿につれていきました。
 王さまの前ヘでると、サヤエンドウじいさんはこういいました。
「わたくしが、はたおり娘の病気をなおしましょう。ただ、一人ずつでなくてはこまります。まずバーシャをなおし、それからスターシャをなおしましょう」
 王さまは、承知(しょうち)しました。
 サヤエンドウじいさんは、にえ湯をいれたカマと、氷水をいれたカマを用意させました。
 それからハチミツのツボと、クリームのツボと、マメをひと袋持ってこさせました。
 すっかりしたくができあがると、死んだようになっているバーシャがはこばれてきました。
 サヤエンドウじいさんは、
「イェジーじいさん。ヘやの戸をしめてくれ。だれもいれちゃいけないよ」
と、いいつけました。
 戸がしまると、サヤエンドウじいさんはバーシャのからだじゅうに、ハチミツとクリームをぬりつけました。
 そして、マメを二つのカマにばらまきました。
 それからバーシャを、さいしょはにえ湯の中につけ、つぎには氷水の中につけて、息を三度ふきかけました。
 するとバーシャは、たちまち元気になり、すぐにとびおきて、美しいレース糸をおりはじめました。
「きょうはこれでいい。スターシャをなおすのは、あすにしよう」
 サヤエンドウじいさんは、そういってどこかヘでていきました。
 さて、バーシャがはたをおる音を聞きつけて、ご殿じゅうの人が集まってきました。
 王さまとおきさきもビックリです。
「まあ、バーシャ。いったいどうしてそんなに元気になったの?」
 バーシャがこたえるまもなく、イェジーじいさんがすすみでてはなしだしました。
「王さま、おきさきさま。バーシャをなおしたのはこのわたくしでございます。あの小人は、ただのてつだいでございます。スターシャだって、かんたんになおしてみせますよ」
 これを聞いたおきさきは、すぐにスターシャの病気もなおすように、イェジーじいさんにいいつけました。
 おきさきは、はやく新しいきものがきたかったのです。
 イェジーじいさんはこまりましたが、でもしかたがありません。
 にえ湯のカマと、氷水のカマと、ハチミツのツボと、クリームのツボと、マメをひと袋用意させました。
 そこへ、スターシャがはこばれてきました。
 イェジーじいさんはヘやの戸をしめると、サヤエンドウじいさんのしたとおり、マメをカマにまき、スターシャにハチミツとクリームをぬりつけました。
 ところが、にえ湯につけたとたん、スターシャはものすごい声をだしました。
 あわてて氷水につけると、もっとものすごいさけび声をあげました。
「たすけてぇー!」
 王さまやおきさきさまが、かけつけてきました。
 見ると、ハチミツとクリームをベッタリからだにつけたスターシャが、いまにも死にそうなようすです。
 イェジーじいさんは、汗をタラタラ流しながら、スターシャにいっしょうけんめい息をふきかけています。
 王さまとおきさきはおこって、イェジーじいさんの首をはねるようにいいつけました。
 そしてとうとう、イェジーじいさんは首きり台の前につれていかれました。
 イェジーじいさんは、なきなきさけびました。
「サヤエンドウじいさん、どこへ、いってしまったんだ。たすけてくれ、たすけてくれ」
 するとたちまち、サヤエンドウじいさんがすがたをあらわしました。
「もちをたべたと、正直にいうかね? ほらをふいたと、正直にいうかね?」
「もちをたべたのは、おまえだ! わしは、ほらなんかふくものか!」
と、おじいさんはいいはりました。
「・・・やれやれ」
 サヤエンドウじいさんは、ため息をつきました。
 でも、王さまにイェジーじいさんの命をたすけてやってくださいとたのんで、スターシャの病気をなおしました。
 王さまとおきさきは、やくそくどおりの金貨の山を、サヤエンドウじいさんにわたしました。
 サヤエンドウじいさんは、船のように大きなマメのさやに、イェジーじいさんと金貨を乗せると、魔法のことばをとなえました。
 すると船は、矢のように空をとんで、イェジーじいさんがはじめてサヤエンドウじいさんにであった畑につきました。
「さあ、この金貨を持っていくがいい。これでおわかれだが、たすけのほしいときは、いつでもいってあげよう。だが、うそをついているうちはたすけてやらないよ」
 イェジーじいさんは、サヤエンドウじいさんにいくどもお礼をいって、まごたちのいる村へ帰っていきました。
 村の近くまでいくと、むこうに赤いうわぎをきた、まごが立っていました。
「おおっ、いま帰ったぞ!」
 おじいさんは、いそいでかけよろうとしました。
と、そのときです。
 とつぜん、おそろしい地ひびきをたてて、小山のようなあばれウシが走ってきました。
 ウシは、赤いうわぎをきた、まごをめがけておそいかかろうとしました。
「サヤエンドウじいさん。たすけてくれ!」
 イェジーじいさんは、大声でよびました。
 サヤエンドウじいさんは、またたくまにあらわれました。
「もちをたべたと、正直にいうかね?」
「たべた! たしかに、わしがたべた! ほらをふいたことをゆるしてくれ! もう、金貨もなにもいらない! おねがいだ! たいせつなまごをたすけてやってくれ!」
 それを聞くと、サヤエンドウじいさんはニッコリ笑って、ウシをシラカバ(→カバノキ科の落葉高木)の木にかえてしまいました。
 それからはイェジーじいさんは、もう二度とほらをふかずに、しあわせにくらしたということです。

おしまい

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