福娘童話集 きょうの新作昔話 童話・昔話・おとぎ話の福娘童話集
福娘童話集 > きょうの新作昔話 > カモシカになった弓の名人 スイスの昔話
     5月16日の豆知識

366日への旅
きょうの記念日
旅の日
きょうの誕生花
アリウム
きょうの誕生日・出来事
1975年 遠山景織子 (俳優)
  5月16日の童話・昔話

福娘童話集
きょうの日本昔話
はかばへいくむすめ
きょうの世界昔話
世界一美しいバラの花
きょうの日本民話
もちはこわい
きょうのイソップ童話
うらない師
きょうの江戸小話
だくだく
広告
 


2008年 5月16日の新作昔話

カモシカになった弓の名人

カモシカになった弓の名人
スイスの昔話スイスの情報

 むかしむかし、ある村に、弓の名人とうわさされる男がいました。
 ねらった獲物は、はずしたことがないのが自慢です。
 ある時、山深くわけ入った男は、一頭のメスのカモシカを見つけました。
 男に見つかったカモシカは、必死で逃げました。
 でも、逃げ道をまちがえたカモシカは、がけの手前で動けなくなりました。
「クワーン」
 かなしそうに鳴くカモシカを見て、男はにやりと笑いました。
 ところが弓を引きしぼった男は、つぎの瞬間、自分の目をうたがいました。
 いつ現れたのか、老人がカモシカのそばに座っているのです。
「わしは、山の精じゃ」
と、老人は言いました。
「なぜ、お前は動物を苦しめて、喜んでいる?」
 男は、答えました。
「いいえ、決して喜んではおりません。生きていく為でございます。牛も、馬も、持っていないわたくしは、鳥やカモシカを撃たねば、食べていけないのです」
 男は一生懸命、言いわけをしました。
 話しを聞き終わった老人は、小さな木のうつわをとり出すと、その中へカモシカの乳をしぼりはじめました。
 しぼり終わると、老人は木のうつわを男にわたして言いました。
「さあ、これが今日からの、お前の食べ物じゃ」
 うつわの中で乳は、チーズのように固まっていました。
「この食べ物は、ほんの少しでも残っていれば、次の食事までには、元の量にもどっている。これをやるから、もう二度と山の生き物を殺さないように。どうじゃ、約束できるかな?」
「はい。二度と、弓矢は使いません」
 そう言うと、男は自分の小屋へ帰って、チーズを一口食べてみました。
「こいつは、うまい!」
 もう少しで、全部食べてしまうところでした。
 でも、老人の言葉を思い出して、ほんのちょっぴり残しておきました。
 次の朝、チーズは元通り、うつわいっぱいになっていました。
 食べる事に困らなくなった男は、弓を取ろうとはしませんでした。
 山の精との約束は、守られたのです。
 弓の名人が来なくなったので、カモシカたちは人間をこわがらなくなりました。
 夏も、秋も、冬も、アルプスの山は平和にすぎていきました。
 やがて、次の年の春がめぐってきました。
 男はふと、くものすだらけの弓に気がつきました。
 男はほこりをはらいながら、弓のうなる音を思い出しました。
 それから、動物のあげる悲鳴を。
「ああ、腕がなる。久しぶりに、この弓をつかってみたいものだ」
 ちょうどその時、カモシカの声が聞こえました。
 見ると一頭、まどの外に立っています。
「しめた!」
 男はすぐ弓矢を持って、飛び出しました。
 矢にねらわれても、人間を信じているカモシカは、逃げようとはしません。
「ばかなやつだ」
 素晴らしい獲物を前にして、男は山の精との約束をわすれていたのです。
 力いっぱい、弓を引きしぼりました。
 ビュン!
 あわれなカモシカは、バッタリと倒れました。
 カモシカの肉は、男の夕食になりました。
「いつものチーズは、食後のデザートだ」
 そう思って、男が戸だなを開けると。
「あっ!」
 中から、黒ネコが飛び出して来ました。
 口に、あのうつわをくわえています。
 人間そっくりの目と手をした、気味の悪いネコでした。
「待てっ!」
 男がどなると、ネコはまどから逃げて行きました。
「おしいことをした。だが、まあいいさ。チーズはとられても、おれが猟をはじめれば、それですむことだ」
 その言葉通り、男はまた、毎日のように弓矢をもって、鳥やカモシカをおい回すようになりました。
 山の平和は、終わったのです。
 男は以前にもまして、楽しげでした。
 弓のうなり、矢羽のひびき、動物のひめい。
「これだ! おれは、この音を聞きたかったんだ!」
 山をかけめぐっていた男は、いつか、山の精と出会ったがけに来ていました。
 不思議なことに、そこにはあの時のメスのカモシカがいるではありませんか。
「今日こそ、しとめてやる」
 男は谷をわたれずに、まごまごしているカモシカめがけて矢をはなちました。
 ビュン!
 カモシカはするどいさけび声をあげながら、谷底ふかくおちて行きました。
「やったぞ!」
 男はかけよりました。
 そして谷底をのぞいた男は、山の精を見つけました。
 カモシカのかわりに、山の精が立っていたのです。
 山の精は、じっと男を見つめていました。
(いや、おれが悪いんじゃない。ネコにチーズをとられてしまって、それで仕方なく)
 男は言い訳をしようとして、自分の声にビックリしました。
 その声は人間の声でなく、カモシカの声だったのです。
 いいえ、声だけでなく、いつの間にか男は、カモシカになっていたのです。
「約束を破らなければ、ずっと人間として幸せに暮らせたものを」
 山の精はそういうと、どこかへ消えてしまいました。
 約束をやぶった弓の名人は、それからはカモシカとして暮らすしかありませんでした。

おしまい

ページを戻る

きょうの新作昔話メニュー
福娘童話集
きょうの新作昔話
福娘のサイト
366日への旅
毎日の記念日・誕生花 ・有名人の誕生日と性格判断
福娘童話集
世界と日本の童話と昔話
子どもの病気相談所
病気検索と対応方法、症状から検索するWEB問診
世界60秒巡り
国旗国歌や世界遺産など、世界の国々の豆知識