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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 松の木の伊勢まいり

2008年 10月1日の新作昔話

松の木の伊勢まいり

松の木の伊勢まいり
山形県の民話山形県情報

 むかしむかし、伊勢(いせ)の大神宮(だいじんぐう)へ、若い男女の二人連れがお参りに行きました。
 二人はとても上品で、特に女の人はとても美しく、名前を松子(まつこ)といったそうです。
 ところが二人とも、とても世間知らずで、特にお金の使い方が下手でした。
 ですから大神宮へのお参りをすませて、いよいよ帰るというときになってみると、お金が足りなくなってしまいました。
 これを見ていた宿屋の主人が、二人を気の毒に思っていいました。
「お客さま、宿代は心配なさいますな。来年、お前さま方の村の誰かが参宮(さんぐう)なさる時に、一緒に返してくだされば結構です。ああ、それからこれは、帰りの足しに」
と、宿屋の主人は、二人にお金まで貸してやりました。
 さて、その次の年の事です。
 あの二人の村の人たちというのが大勢きて、その宿屋に泊まりました。
 それで主人は、
「あの、あなたの村の松子さんという人と、いま一人の方に、去年少しばかり、おたてかえしたものがあるのでございますが、お持ちくださいましたでございましょうか?」
と、たずねてみました。
 すると、その村の人たちは、
「はあ、松子さん?」
 そういって、みんな不思議な顔つきをしました。
 松野とか、松代とか、松のつく名は村にいるのですが、その松子というのはいません。
 それに村からは、まだ一人も伊勢参宮したものがないというのです。
「へえ、さようでございますか。おかしいですねえ。決して人をだまされる方には、お見受けしませんでしたが」
 宿屋の主人はそう言って、何度も首をひねりました。
 しかし、それから何日かたった後の事です。
 伊勢参宮から帰ってきたあの村の人たちは、さっそく伊勢の宿屋で聞いた話を村の人たちに話しました。
 すると、その村の人たちの中の一人が、
「そうか、それでわかった!」
 そういって、両手を打ちました。
「村の諏訪神社(すわじんじゃ)の二本の高い松の木の上に、去年から白い物がちらちらしているのを知っていなさるか?」
「ああ、あれですか。わたしは、子どもがたこでもかけたのかと思っていたのですが」
「いやいや、あれは今の話しから考えてみると、どうしてもお伊勢さんの大麻(たいま→神社からさずけるおふだのこと)ですわ。そうじゃないか、そうじゃないかと、わたしは思っていたのですよ」
「そういえば、あれは去年からありましたな。たしかに、もしかしたら大麻かもしれませんぞ」
「よし、確かめてやろう」
 それでとうとう、木登りの上手な人がその木に登っていくと、やがて上の方から、
「おーい!」
と、声がしました。
 それで木の下のみんなは、上に向かって大声でたずねました。
「どうだったー! お伊勢さんの大麻かー!」
 すると、
「やっぱり、大麻だあー! 大神宮さんのおはらいだあー! まちがいなしの大麻だあー!」
と、上から返事がありました。
 これを聞くと、みんなはびっくりして、たがいに顔を見あわせました。
「やっぱり、そうだったのか。ここにある二本の大松の木が、人の形になって伊勢神宮へお参りしたに違いない」
 そうとわかってみれば、その宿代をほおって置くわけにはいきません。
 それで村中から金を集めて、さっそくそれを伊勢の宿屋へ送り届けたという事です。

おしまい

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