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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 日田(ひた)どん

2008年 11月25日の新作昔話

日田(ひた)どん

日田(ひた)どん
大分県の民話大分県情報

 むかしむかし、日田(ひた)の町に、犬蔵永季(おおくらながとし)いう力持ちの男がいました。
 背たけは六尺六寸(約二メートル)をこえる大男で、なんでも畳一枚もある大石を折りたたむほどの力持ちだったそうです。
 それに、どんなすもう大会でも負けたことがないので、みんなからは『日田どん』と呼ばれていました。
 その頃、京の都では日本一の力自慢を競う、御前ずもうが行われていました。
 もちろん日田どんも選ばれて、御前ずもうに出ることになったのです。
 日田どんは大原八幡宮(おおはらはちまんぐう)にお参りして優勝を祈願すると、都へ向かいました。
 ところが日田どんが筑前の国(ちくぜんのくに→福岡県)にさしかかったころ、花の精かと思われるような美しい娘が現れて、こう言いました。
「そなたの相手は、出雲の国(いずものくに→島根県)の小冠者(こかじゃ)という者なるぞ。赤銅の体に、頭は鉄のごとし。残念だが、とても勝ち目はない」
 聞くところによると、小冠者の母は強い子を産もうとして、毎日砂鉄ばかりを食べていたので、全身が鉄の肌をした小冠者が生まれたというのです。
 日田どんが顔色をかえていると、娘はさらにこう言いました。
「ですが、恐れることはありません。小冠者の母は、あるときうっかりウリを食べたことがあるそのため、小冠者の額には親指の先ほどのやわらかいところがあるのです。そこを狙えば、勝てるでしょう」
 娘はそれだけ言うと、かき消すようにいなくなってしまいました。
「あの娘は、何者じゃろう? さては、大原八幡のお告げか」
 日田どんは自信を持って、都へ足を進めました。
 さていよいよ、日本一が決まるその日、娘の言った通り最後まで勝ち残ったのは、日田どんと小冠者でした。
 やがて太鼓が鳴り響くと、小冠者はすごい勢いで突進してきました。
 日田どんも負けじと押し返しますが、うわさ通り小冠者の体は鉄のように固く、力も牛のように強いのです。
「なにくそー!」
 日田どんがいくら押しても、小冠者はびくともしません。
 そのうちに、さすがの日田どんも危なくなってきました。
 そのとき、どこからか白鳥が舞いおりると、日田どんの頭の上をまい始めたではありませんか。
 日田どんは、あの娘の言葉を思い出すと最後の力をふりしぼり、ここぞとばかりに小冠者の額めがけて右手をつきました。
「ウギャーーー!」
 これには小冠者も悲鳴を上げて、よろよろとよろけるとその場に倒れてしまったのです。
 こうして日田どんはめでたく日本一となり、その後も四十九歳で死ぬまで、一度もすもうで負けたことがなかったそうです。
 そして日田神社の鳥居には、今でも日田どんが『力士道の神』として、たたえられているのです。

おしまい

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