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2008年 4月2日の新作昔話
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芝居見物
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
ある日、臼杵(うすき→大分県)の町に、都から芝居がやってきました。
この辺りでは、これほどの大芝居は初めてです。
毎日多くの人が押しかけ、うわさを聞いたきっちょむさんも、臼杵まで山をこえてやってきました。
町に着くと、大きな芝居小屋がたっていました。
芝居小屋の前には役者の名をそめたのぼりが立っていて、入口には、きれいな絵看板がならんでいます。
きっちょむさんは、さっそく入ろうと思いましたが、
「しまった!」
かんじんのお金を、忘れてきたのです。
「これでは、入る事はできんな」
そこできっちょむさんはあれこれと考えて、一つの名案を思いつきました。
「よし、この手でいこう」
きっちょむさんは人ごみにまぎれて芝居小屋の入口までやってくると、くるりと向きを変えて、わざと大きな声で言いました。
「どうしたのかなー! あいつはー!」
そして、人を探すふりをはじめたのです。
まるで人を探しながら、いま、この芝居小屋の中から出てきたといわんばかりです。
キョロキョロしているきっちょむさんの後ろに、芝居小屋へ入ろうとする大勢のお客がつめかけてきました。
それでもまだ、
「こないなあー! あいつー!」
と、わざと入ってくる人の邪魔をするようにしていると、芝居小屋の番人がやってきて、
「もしもし、そこの人。出るのかね? 入るのかね? 出るなら出る、入るなら入るで、はやくしておくれよ。じゃまになるじゃないか」
するときっちょむさんは、すまなそうに言いました。
「いやー、連れとはぐれたんだが、えい、中で待つとするか」
こうしてきっちょむさんは芝居小屋に入っていき、ただで芝居見物をしたのです。
おしまい
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