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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 二人の幽霊
2008年 8月18日の新作昔話
二人の幽霊
むかしむかし、ある町に、色白で気の弱い、新べえという侍がいました。
弓も刀もだめで、仲間からは腰抜けよばわりされていました。
さてこの町に、もとは町一番の長者屋敷だったのですが、今は荒れ果てて幽霊が出るとのうわさの屋敷がありました。
ある日、仲間の侍たちから、
「どんなに強い侍でも、一晩とおれんというぞ。お主なんか、門をくぐることさえも出来まい。あはははははっ」
と、ばかにされた新べえは、
「そこまで言われては、なにがなんでも泊まってやるわ」
と、家にかえって腹ごしらえをすると、おっかなびっくり、幽霊屋敷へ出かけていきました。
草がぼうぼうの庭に入っていくと、さっそくひとだまが、西と東から一つずつ、すすーっと、飛んできました。
「うひゃーっ、ひとだまが、二つも!」
新べえは逃げ出したいのをがまんして、恐る恐る屋敷に入りました。
やがて、ろうそくの火がひとゆれしたかとおもうと、
「うらめしやあ・・・」
と、髪の長い女の幽霊が、銀のお金の入ったはこを抱いて現れました。
「で、出たー!」
新べえがふるえあがりながらも、何とかこらえていると、かぎを手にした男の幽霊も現れました。
男女の幽霊が一緒に出てくるなんて、よほどのわけがあるのでしょう。
新べえが思い切って、わけを聞いてみると、
「わたしたち二人は、この屋敷で働いていた者同士です。結婚の約束をしたのですが、主人がそれを許してくれません」
と、男の幽霊が、かたりはじめました。
「そこで屋敷のお金を持ち出して、よその町へ逃げてくらそうとしたのですが、主人に見つかってしまい、二人とも斬り殺されてしまいました。そして別々のところにうめられ、いまもそのままなのです。わたしたちはそのうらみから、屋敷の主人にたたってやりましたが、いまだに成仏出来ません。どうかこのお金でお坊さんをよんで、成仏させてください」
「そうだったのか。わかった」
新べえが引き受けると、男女の幽霊はひとだまになって、すーっと出ていきました。
座敷には銀のお金がずっしり入ったはこと、そのはこのかぎが残されています。
あくる朝、新べえは幽霊屋敷の出来事を寺の和尚さんに伝えて、二人の供養してもらいました。
この話しを聞いた、この国の殿さまは、
「腰抜けどころか、新べえの働きは侍のかがみであるぞ。ほめてとらす」
と、ほうびとして、その屋敷をあたえたそうです。
おしまい
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