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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 八雲の水 
      夏の怖い話し特集 
2009年 8月5日の新作昔話 
           
            
           
  八雲の水 
  京都府の民話 → 京都府の情報       
       むかしむかし、ある村に、与八と言う、とても親孝行な若者がいました。 
         与八は毎日、年老いた両親の為に、朝早くから夕方遅くまで一生懸命に働きます。 
         そんなある日の帰り道、急な雨に降られてびしょぬれになった与八は、走って家に帰りましたが、その途中、ふと見慣れないわき水がわいていたので、与八はそれを手の平にすくうと、ごくりと飲み干しました。 
        「うまい。今度この水を、父や母に持って帰ろう」 
         そして再び、家への道を急ぎました。 
         でもその夜に風邪をひいてしまい、そのまま三日三晩苦しんだ後、与八は死んでしまったのです。 
         
         さて、死んだ与八は気がつくと、多くの死人たちと一緒に、暗い道をとぼとぼと歩いていました。 
         そして何日も何日も休まずに歩くと、大きな血の川が流れていました。 
        「これが、三途の川か」 
         そこで与八は、お葬式の時に棺に入れてもらった六道銭(ろくどうせん)と呼ばれる三途の川の渡し賃の六文を取り出すと、三途の川の番人に渡して川を渡してもらいました。 
         そしてその先には大きな建物があり、その中で最初に死んだと言われる閻魔大王が、閻魔帳と呼ばれる、人が今まで行ってきた善悪の書かれた帳面を調べて、死者の天国行きか地獄行きかを決めていたのです。 
         与八が順番に並んでいると、前の方にいた人が閻魔大王に呼ばれ、前に進み出て名前を言いました。 
         すると閻魔大王が、 
        「お前は、八雲の水を飲んできたか?」 
        と、尋ねました。 
         そこで前の男が、 
        「いいえ、飲んでいません」 
        と、答えると、閻魔大王は苦い顔で、 
        「それなら、そっちへ行け」 
        と、地獄へつながる鉄の門を開いたのです。 
         その次の死人が、同じ質問に、 
        「飲みました」 
        と、嘘をつくと、閻魔大王は突然、大きな釘抜きを机の下から取り出して、嘘をついた死人の舌を抜き取り、 
        「嘘をつくような奴は、地獄行きだ!」 
        と、その死人を地獄へ送ったのです。 
         さて、次はいよいよ、与八の番です。 
         閻魔大王は与八に、 
        「八雲の水を飲んできたか?」 
        と、尋ねました。 
        「いいえ、飲んで・・・」 
        と、与八は言いかけて、あの湧水の事を思い出しました。 
        (もしかすると、あの湧水が、八雲の水なのだろうか?) 
         そこで与八が、 
        「飲んできました」 
        と、答えると、閻魔大王は満面の笑みを浮かべて、 
        「よし、お前はこっちへ来い」 
        と、地獄とは別の方角へ案内してくれたのです。 
         そこは明るく暖かで、何とも言えない良い香りの蓮の白い花咲く池がありました。 
         こここそが、極楽なのです。 
         そしてそこには、とてもやさしそうな人が大勢いて、与八は極楽で、幸せに暮らしたということです。 
         
       八雲の水と言うのは、この極楽の蓮の花が咲く池の水が地上に流れ出たもので、極楽へ行くことが出来る善人は、知らず知らずのうちに、この八雲の水を口にすると言われています。 
      おしまい 
         
          
         
        
       
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