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 第 9話
 
  
 笑い地蔵
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  むかしむかし、ある村に、おばあさんと息子が二人でくらしていました。ある晩、おばあさんは急な用事が出来たので、となり村まで行かなくてはなりません。
 それでおばあさんは、息子に言いました。
 「悪いたぬきがだましに来るかもしれねえから、戸閉まりをして寝るんじゃよ。わしは明日の昼には、もどって来るからな」
 「うん」
 息子はおばあさんを見送ると戸閉まりをして、寝ることにしました。
 そのとき、
 トントン、トントントン。
 と、戸をたたく音がします。
 「何か、ご用ですか?」
 息子がたずねると、戸の向こうからおばあさんの声がします。
 「わしじゃよ。開けておくれ」
 (おかしいなあ。帰りは明日の昼と言っていたのに)
 息子が首をかしげながらも戸を開けると、確かにおばあさんが立っていて、
 「ああ、疲れた」
 と、腰をたたきながら入って来ます。
 それから、いろりの前に座ると、なべのふたを開けて残り物を食べ始めたのです。
 (こりゃ、ますますおかしいぞ。おばあさんはちゃんと夕飯を食ったし、こんな夜ふけに物を食ったりしないはず。・・・ははーん、さては)
 息子はある名案を思いつくと、おばあさんに言いました。
 「おや? おばあさん、今日はいつもとちがいますねえ。いつもなら帰ると、すぐその袋に入るのに」
 息子が台所にある米袋を指さすと、なべをかかえて残り物を食べていたおばあさんは、
 「おおっ、そうじゃった、そうじゃった」
 と、あわててなべをおいて、米袋にもぐり込みました。
 (しめしめ、うまくいったぞ)
 息子は笑い出したいのを、ぐっとがまんして言いました。
 「おや? 変ですねえ。いつもなら、『米袋の入り口をひもでむすんどくれ』と言うのに」
 すると、米袋の中からおばあさんが言いました。
 「おおっ、そうじゃった、そうじゃった。ひもでむすんどくれ」
 そこで息子は、おばあさんの入った米袋の入り口を、ひもでギュッギュッとむすびました。
 それから今度は、
 「おや? 今夜は、どうしたのかな? こいつもなら入り口をむすんだ後、『納屋に放り込んでおくれ』と言うのに」
 と、言うと、米袋の中からおばあさんが、
 「おおっ、そうじゃった、そうじゃった。どうか、納屋にほうり込んでおくれ」
 と、答えたので、息子は米袋をかついで力一杯、納屋に放り投げました。
 「いたたた。やい、なにすんだ!」
 おばあさんは、米袋の中で思わずそう叫んで、
 「しまった。ばれてしもうた」
 と、あわてました。
 そして小さな虫に化け直すと、米袋の穴から出て納屋を抜け出しました。
 その様子を見ていた息子は、急いで外へ飛び出して、月あかりの道を逃げていくたぬきを追いかけました。
 「やっぱりたぬきだったな! こらっ、まてー!」
 しばらく走って大きなまがり角をまがると、たぬきの姿が見えなくなりました。
 「逃げられたかな?」
 しかし、ふと見ると、道にお地蔵さまが二つ並んでいます。
 (おかしいぞ。お地蔵さまは一つだけなのに。・・・そうか)
 息子はにやりと笑うと、お地蔵さまに手を合わせて言いました。
 「お地蔵さま、いつもおれが手を合わせると、にっこりしてくださってありがとうございます」
 そのとたん、片方のお地蔵さまがにっこり笑いました。
 息子もにっこりと笑い返して、
 「では、まいりましょう」
 と、そのお地蔵さまをひょいとかついで家に帰り、あっという間にたぬき汁にしてしまいました。
 おしまい   
 
 
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